第1986話:キツカ・リゴミ~計算通り~

「計算通りだ」

 放物線を描いて飛んでいくボールを見てつぶやく。

「そりゃあそうだろう。ここは計算で成り立っている空間。端数や揺らぎ、乱数は存在していない完璧な空間だからな」

「計算式を書けばその通りに動くんだよな。スゲーよ」

「不思議なことに空気抵抗も摩擦もないものとして計算できる」

「そういう風に定義されてるんだからそうなんだろう。摩擦を計算する時だけは摩擦が発生するんだとよ」

「それもまたすごい話だなぁ」

「ああ」

「ちょっと待てよ? じゃあ俺たちはどうやって歩いてんだ?」

 普段通りに動ける体を見て少し疑問に思う。

「プレイヤーはプレイヤーでシステムが異なるんだろ。いちいち人体の構造を計算して全定義するわけにもいかんからな。いや、裏に全部記述してあるのか?」

「その可能性はあるけど確かめようがないなぁ」

「まぁ試しはできたんだし、目的の計算の検証だけして帰ろうぜ。なんとなく長居すると頭が逆におかしくなりそうだし」

「そうだな。普通の物理とはあまりにもズレた挙動をする物体がいっぱいあるからな。手早く済ませよう」

 周りには落下する際に徐々に速度が落ちていき跳ねる際に上昇するほど速度が上がる球体や、高速で移動しながら減速をすることなく直角に曲がる立方体がゴロゴロしている空間だ。確かにあまり長居するには向いていなさそうだ。

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