第1955話:ハヌ・フォリオ〜知らない理想郷〜

「理想郷に住めている人っていいよね」

「理想郷? あぁ、あの壁の向こうの話ね」

「そう、この世界で生まれた場所があの壁の向こうのっていうだけで、理想郷に住めるんだもん。ズルいよ」

「まぁ確かに、生まれで生活の質が変わるのはちょっとズルいかもね」

「私だってあっちに生まれてたらもっと幸せに過ごしてたはずだよ。今はすごい不幸な暮らししかできてないんだもん」

「まぁ、いる場所で頑張っていい暮らししようよ。ていうか、あんたは結構いい暮らししてるよここでは」

「もっといい暮らしができるはずなんだもん。私は頑張ってるんだから、生まれた場所さえ違えばもっといい暮らしできるんだもん」

「そうだね、あんたは頑張ってるからね」

「あー、壁の向こうに生まれてたらなぁ」

 彼女はそういう、愚痴を常日頃私に対してこぼしていたが、私が壁の向こうから来たことを知らない。

 確かにあの壁の向こうは裕福だ。

 あちらでならば、実力は正しく評価されてそれに見合った待遇を得ることができる。

 しかし、私は彼女が向こうに生まれなくて良かったと思っている。

 私は向こうにいたからわかるが、彼女の実力では向こうの最低レベルの生活しかできないだろう。

 彼女の性格上、実力が上の存在が無数にいることには耐えられないだろう。

 それこそ、彼らはなにか自分が知らない、教えてもらえない裏技を知っていると言い出して腐ることだろう。

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