第1825話:カバー・リリス~責任を取って~

「何もしなくてもいい仕事があるって聞いてきたんですけど」

「ああ、そうだ。この仕事は何もする必要はない。ただ、私たちが何か失敗した際に責任を取っていなくなってもらうだけでいいんだ」

「責任を取っていなくなる?」

「そう、私たちはざっくりいうと知識や知見を活かしていろいろなことを考え決定するという仕事をしているのだが、時折判断を誤って大きな損害を生んでしまうことがある」「そうなれば責任を取って辞任する必要があるのだが……」「私たちの後任となれるような賢者はそうそういないのだよ」

「なるほど?」

「だから、私たちの代わりに「私の決定です」と発表し、それによって発生する責任という物を代わりに負ってもらう仕事ってことさ」

「……えーと、つまり……?」

「君は何もしなくてもいいってことさ、ただ次の失敗まで名前を貸してくれればいい、それだけだよ」

「その次の失敗っていうのが来たらどうなるんです?」

「どうもないよ、ただ君の名前で謝罪文を出して、それ以降は君の名を使うことはしない。そしてまた新しい責任者を立てる、それだけだよ」「君も見たことがあるだろう? なんらかの大きな失敗の責任を追及されて失脚した人をさ」「あれが今から君がする仕事だよ」

「あーなるほど、あれですか。そういえばそうやって失脚した人ってそのあとのことなんも聞かないんですけど、なんでですか?」

「そりゃあ、何の責任も負わない一般人に戻るからさ」「二度と表舞台に立つことのない、一般人にね」

「確かにそれなら見かけることはないか」

「うん、楽な仕事だろう?」

「ですね、やらせてもらいます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る