第1821話:ケビィ・ピカリ~閉館~
「これで最後か?」
「うん、もう他は置いて行っていいよ」
今日でこの美術館は閉館を迎える。
一般開放は既に終わっており、あとはいくらか残った美術品の返却や持ち込まれていた私物や別の場所で再利用される器具の搬出が今日に残っていただけであり、それももう今運び出された物で最後だ。
「本当に終わりなんだなぁ……
この美術館にはずいぶん長い時間居た気がする。
今まで様々な美術館を転々としたがここほど長くいた場所はない。
それが終わりとなると、こう、来るものがあるな。
次に向かう美術館ではきっとまた新たなで会いがあるのだろうが、ここでの経験はずっと私の糧となり続けるのだろう……」
「干渉に浸ってるごっこはやめて、さっさと次の美術館に行くよ。あんたは労働力としても有用だったら最後にしたけど、本質は展示品なんだから」
「わかってるよ。しかし君たちと過ごしたここでのことが特別思い出深いことは確かなのだ、忘れることはないよ」
「どうだか、あんたは美術館での経験を美しく彩るという機能を持った人形。どこに行ってもそこの美術館での美しい思い出を作ることができるだろうさ」
「それは……」
美術館に来る客に対するものであり、この人形自体の思い出に作用するものではないが、この人形が過ごしたこの美術館での暮らしが人形にとって良いものであったというのなら、そうなのだろう。
しかし、なくなる美術館に気持ちを置き続けてもらっては困るのだ。
新しい美術館に早く馴染んでもらわないと、この人形の意味がないのだから。
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