第1737話:インド・ウルオン~近隣住民~

「…………」

「どうした、そんな口に封をするようなマスクなんてつけて。今日はしゃべらないっていう意思表示か?」

「…………」

 彼はしゃべらず、目線で壁の方を示す。

 そこに貼ってあったのは「最近うるさいので、しずかに過ごしてください」という張り紙。

「あー、つまり? 近所迷惑になるような騒ぎ方をしていたら怒られたので自粛中ってことか?」

「…………」こくこくと、うなずく。

「なるほどね。お前は興奮すると声がでかくなるし、悪いことにめちゃくちゃ通りがいい。そりゃあ近所迷惑にもなるわけだ」

「…………」

 不満そうな顔をしている。

「お前はそうは思ってないかもしれないけど、実際そうなんだから仕方ないだろ。形だけでも反省はする気があるみたいだから、普段よりはマシか? っと、煽ってるとまた大声でどやされかねない、それは近所迷惑になっちまうからな、こんなもんにしておくよ」

「…………」

「お、なんだ怒ってるのか? 怒ってるのに怒鳴りつけたりしないのはすごいぞ、本当に反省しているのか、それとも……」

「…………」

 表情から内心を読み取ろうとしたのを避けるかのように顔をそむける。

 続く言葉を推測したのだろう。

「あれを張っていった近隣住民によっぽど怖い目にあわされたかだな。そりゃあ、もう室内に押し入ってきてあれを張っていったぐらいだし、それを君がはがせずにいるんだ。次うるさくしたらどうなるか……想像もしたくないね?」

「…………」こくこくこくこくと高速でうなずく、どうやらそういうことのようだ。

「しかし、どうするんだい? 君はこれからずっとしゃべらずに暮らすつもりかい?」

 そんなに近隣住民が怖いなら引っ越せばいいのにと思わなくもないが、何か事情でもあるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る