第1715話:ケイフ・オフルイ~挨拶~

「おはよう」

 私の毎朝のお気に入りの場所、そこで本を読んでいると後ろで同じような時間に待ち合わせをしているのか、挨拶をする声が聞こえてくる。

 ここ数週間毎日のように聞いている。


「おはよう」

 今日も後ろで挨拶する声が聞こえる。

 数日前から気になっていることがひとつある。

 後ろで挨拶している声は、一人分しか聞こえないのだ。

 挨拶されている方が無口なのか、単に無視されているのか、とにかく片方の声しか聞こえない。

 気になるが振り向くほどのことでもない。


「おはよう」

 昨日、更に奇妙なことに気づいてしまった。

 後ろで挨拶している人は、挨拶をしたあと少しだけ足を止めてから歩き出すのだが、やはり挨拶を受けたもう一人の足音がしていないのだ。

 さすがにこれは後ろが気になってしまう。


「おはよう」

 ついに後ろが気になり振り向いてしまった。

 そこには一人しかおらず、私の方へ向かって挨拶をしていた。

「おはよう」

 顔が会った状態で、追加でもう一度挨拶をされた。

 もしかしたらずっと前からずっと、私に向かって挨拶をしていたのだろうか。

 ずっとその事に気づかず、無視し続けても挨拶をしつづけるその執着が自分に対して向けられていたことがさすがに怖くなってしまい、二度とその場所には行っていない。

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