第1623話:ハツシロ・ミアマ~なくしもの~
「無い、無い、無い!」
大きな声で喚きながら何かを探している人がいる。
回りにいる人に「見ませんでしたか?」「知りませんか?」と尋ねて回り、物陰があれば除き込んで「無い!」と叫ぶ。
草の根分けても探し出すという気概を感じるし、なにより実践している。
いったい何を探しているのだろうか。
尋ねるときに肝心の何をを言っておらず、答えを聞く前に次の人のところへ尋ねに行ってしまうので、誰も何を探しているのか聞けてすらいない。
せめて何を探しているのかがわかりさえすればみんなで手伝うこともできるのだろうが、そもそものそれがわからないのでは協力のしようがない。
暇なのでしばらく眺めているが本当に延々尋ねて回っている。
見てないで助けたらいいだろうと思われるかもしれないが、前述の理由により一人では尋ね返すことすら儘ならない。
複数人で囲うようにして距離を詰めれば動きを止めて、何を探しているのか尋ねることもできるかもしれないが……
そしてふと気づく。
私以外にもこの辺りにずっといてあの人を眺めている人がいることに。
もしやと思い、声をかけるとやはりというかなんというか、同志であった。
ここからの展開は早い。
彼も私同様、この辺りにいるものの目星をいくらか突いており、同志は30人にもなった。
そうなれば、あの人に尋ね返すこともできよう。
半分があの人の向こう側へ回り込み、もう半分がこちらから追い込んで端と端がくっつくことで大きな輪になった。
それにも気づかないのか、まだ「無い無い」と辺りの地面を見回している。
私たちはじわじわと輪を狭めていき、その人を追い詰めていく。
もう逃げ場はないぞというところで、意を決して口を開く。
「あの、何を探しているんですか!」と。
しかしそれを30人が同時にだ。
声は混ざり、なんと言っているのかわからなくなってしまい、言い直そうにも示し合わせなどできようもなく、アワアワしているうちに輪は崩れてあの人は逃げていってしまった。
作戦の失敗に皆の意気は落ちに落ち、私だけが残された。
さて、私はどうするか。
あの人を探しにいくか、それともこの場であの人が探していたであろうものを探してみるか。
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