第1448話:フリギシ・カルハ~群衆の一人~

 人の群れが街を進んでいく。

 いや、それは正確ではない。

 彼らは群れではなく、それぞれが個としてこの道を進んでいる。

 僕は人の関係を知覚することができるからわかるが、彼らは全員無関係の他人だ。

 ただ、偶然にも全員こちらに用事があるため傍から見たらまるで群衆、人の群れであるように見えるというわけだ。

 僕? 僕の目的はこういうのが珍しいから見に来たんだよ。

 全員が赤の他人だと言ったが、それはこの道を進む前の話で、不思議と同じ道を進む者はお互いを同族だと思い込む。

 歩き始めてしばらく経った今、すでにいくつかのペアができていて、お互いの目的の話をし始める。

 ただ、全員が同じ目的だと思っているのでそれぞれ主語を省いて話しているため、違う物の話をしているのに奇跡的に会話がかみ合っている。

 ふふふ、どちらの認識もわかっている私からするととても面白い、まるでコントだ。

 しばらくこの人々の中をうろうろしながら面白い会話を聞きながら顔に出ないように笑う。

 おっと、あそこでは喧嘩が起きている。

 どうやら解釈違いが起きているようだ、二人とも違う物について話しているから当然だね。

 その過程で、主語が出た。

「あ……? 何の話だ?」

 別のものの話をしていたのだから、当然何のことかわからない。

 お互い何の話をしていたのかを確認してようやく勘違いに気づく。

 直前に喧嘩になってて声を荒立てたこともあってこの二人には注目が集まっていて、その目的の確認の波が辺りに広がっていく。

 全員がお互いの目的が自分の目的とは違うとわかり、次第に「じゃあ集団についていけば目的地に着くと思っていた俺はどこに来てしまったんだ?」という声があちらこちらから聞こえてきた。

 まぁそうなるな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る