第1349話:シシャン・リケリット~それはない~

「それはないだろ」

 思ったことが出すべきかどうか考える前に口に出た。

 普段はそんなことはない私なんだが、それでもつい言ってしまうほどにありえない話を真面目な、これは間違いない真実ですという顔でされてしまったら、我慢できることではない。

「…………」

 ダメだ、まだ真面目な顔が崩れない。

 笑ってくれ、ここで「実は冗談なんですよ」と言ってくれ、そうしたら私は「なんだやっぱり冗談か、ははは」と笑って流すことができるんだ。

「冗談だよな?」

 こわばりそうな表情をなんとかゆるめながら問い直す。

「…………」

 返事はない。

 空気だけが重くなっていく、まだ今なら冗談で済む、冗談であればまだ笑い話で済むんだ。

 ああダメだ、この事実はもし事実だとしても受け入れがたい。

 絶対に冗談であることを認めて貰わなければならない……。

「まさか、冗談じゃ、ないのか……?」

「…………」

 少しの溜めの後こくりとうなずき返され、頭を抱えることになるわけだが……

「冗談だと言ってくれ……」

 何とか絞り出したその言葉に対して返された言葉は

「冗談だよ」

 という、今それを言ったらそっちの方が冗談ではないのか? と疑ってしまうぐらい軽く言われた。

「なんだ、冗談か……はは、はぁ~」

 冗談であって安堵したんだけど、直前まで体と心に力が入りすぎていたため、すぐには脱力できず、逆にこわばってしまっている。

「ここでその冗談っていう宣言を撤回したりはしないよな?」

 一応の確認、冗談を言う奴ではあるが、ここまで引っ張った冗談は珍しい。

「…………」

 無言でふいっと目をそらされた。

 本当に冗談だよな……?

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