第1334話:フサビキ・シギリ~逃げるウサギ~

「まてぇー!!!」

 走る俺、その先を走るのは一羽の白いウサギだ。

 俺は狩人ではない、なのになんでウサギを追いかけているかと言えばあのウサギが時計を持っているからだ。

 ただの時計ではない、あれは俺の時計だ。

 かと言って盗られたわけでも、置き忘れたわけでもない。

 俺が時計だ。

 なんでそんなものがこの場所にあってウサギが持っているかはわからない。

 なんでこんな状況になっているかはわからないけど、なんとか取り戻さないといけないというのは理解できる。

 しかし、ウサギの脚が速い!!!



「見失った……」

 森の中で野生動物を追いかけるのは無理だ……

「クソッ」

 疲労から腰を下ろす。

 あの時計がなんで今こんなところにあるんだ……

 大切な時計かと言われれば、そうだ。

 だけど、この世界に来た時に持ち物は持ち越せないと言われて、諦めたんだ。

 それが、今ここにある。

 そうなったら諦められるはずがないだろう。


 見失ってしまったなら今度は罠を仕掛けるしかない。

 ウサギ狩りといえば罠だ、ちょっと調べて簡単なものをいくつか作って仕掛ける。

 こんなもんか……

 罠を仕掛けたが掛かるかが不安なので一応自分でもまた探しに行く。

 追いかけることになっても罠に追い込むことが出来さえすれば、捕まえられる。


 見つけた。

 こちらに気づいてい無さそうで近くに仕掛けた罠もある。

 チャンスだ、罠の反対側から音をたてないように近づいて、手が届く距離で一気に飛び込んで捕まえた。

「あれ……?」

 ウサギは捕まえたが、時計は取れない。

 ウサギと時計は一体化していた、時計ウサギだ。

「どうなっているんだ?」




 どうして俺の時計がこの世界でウサギにくっついていたかはわからないが、今もウサギはうちで飼っている。

 もしかしたらこちらの世界に来るために時計が生命を得て死んだのかもしれない。

 余りにも空想が過ぎるが、この世界に生きているとそういうこともあるのかもしれないと思える。

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