第1260話:ウェンデ・ファシット~このまま~

 突然街へ向けて進行してくる山。それはずっと眠りについていた大陸亀で、長い長い冬眠から目覚めた。

「あれでまだ子供だって言うんだからビックリだよな」

「大人の大陸亀は文字通り大陸の大きさで、一生をその背で終える命も数多くあるらしい」

「子の内に狩ってしまってもいいのかい?」

「あれの一生は長い、国が興って滅びるまでより永い時を生き、この中で数えきれぬほどの卵を産むと言われている」

「ならば保護動物でなく災害。あれが街の方に来るとなれば止めるしかあるまい。恨むなよゼニガメ」




「っていうの、憧れるんだよなぁ」

「何が? 亀と戦いたいって話?」

「違う、街の危機にデカイ武器を担いで二人ならんで立ち向かう、突撃直前まで軽口を叩き合い、きっちりきっかりやることやって無事帰還、そういう流れを一回でいいからやってみたいなぁって話さ」

「そりゃあ無理だな、実現しない。絶対に」

「なぜ? いやぁ確かにあの山が冬眠中の大陸亀の子供だって設定は無理があるかもしれないが、他の危機だって来るかもしれないだろう?」

「そういう話じゃない、大陸亀でもミサイルバードの大群だろうと、生きた裂け目が来ようとそういう展開にはならない、なぜかわからないとは言わせないぞ?」

「なぜだ?」

「俺たちは別に戦える力を持ってる訳じゃないってことだ、武器など持ったこともないだろう。前提を伴わない理想ごとを妄想って言うんだ。覚えとけ」

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