第1179話:ヘガ・リグドウ~ブレインブースト~
「大丈夫ですかー、意識ありますか?」
話しかけられて気がついた、あれ、さっきまで僕は何をしていたんだっけ。
「え、と、ここはどこなんでしょう?」
「あなたは死にました、ここは死後の世界です」
「死後の世界」
話を聞いてみると、死んだ人は全てここで生まれなおして全く違う文明の混ざり合ったこの世界で第二の人生を歩むらしい。
なんだそれはと思わなくもなかったが、そもそも、前の人生についてほとんど思い出せないぞ?
「大丈夫です、混乱しているでしょうが、あなた方はそういうものです」
そういうものとは。
「あなた方の世界では脳に機械を埋め込んで機能をブーストさせているでしょう? でもですね、転生時に完全に生身になってしまっているので増設計算空間や無意識装置の補助が効かないばかりか、増設ストレージに入っていた記憶も失われてしまうんですよ」
「え、そんな……、じゃあこれから僕はどうすれば……」
確かにそうだ、『大人』になる時に頭に機械を埋める手術をした、メモリもストレージも増やして余暇を創作に当てていた、その記憶はある。
しかし……
「今まで書いたものの記憶も、あったはずのアイデアも、これから湧き出てくるはずだったアイデアのすべてが失われてしまった……」
というよりも、それよりも、ずっと、ずっとショックだったのは……
「ええと、一応同様の手術を行える設備があるので、そちらで申告してもらえれば同様のスペックの脳にすることも可能です。ただ、未成熟な体になってしまっているので、載せられるハードウェアには制限がかかりますが」
その、案内人の話ももう聞こえてはいなかった。
それほどまでに僕はショックだった、もう覚えてはいないあの話も、あの話も、あの話も、どれも、これも、全てだ。
全てが僕の力で書いたものではなかったのだ……
その後のことはなんとか覚えている。
完全消沈していた僕をなんとか立たせて手続きをさせ、部屋をあてがって別の人に送ってもらった。
補助脳増設手術の提案には結局返事をできず、保留ということになった。
補助脳をつけることでまた自分だと思っていた自分以外に僕を支配されてしまうのではないだろうかという恐怖もあるが、それと同等にまた以前のように創作するための能力が得られるかもしれないという期待もある。
以前の僕なら、こういう決断もすぐにできたはずだ。
補助脳を失って、決断すら機械の判断だったことに気づいてしまった……
どうしよう……
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