第1152話:プエア・オウディット~戦場の無装~

「無装が出た」

偵察から入った情報を聞いて隊長の表情は少し険しくなる。

「現れたか、どこの勢力にも所属せず、数多の戦場を渡り歩き全てを破壊して回る……、一切の武装をせずに破壊を行うことからついたあだ名が」

無装勢力ファウム・オストリテ……」

実在する都市伝説みたいなもので、戦場の災害だとも言われている。

「もう少し行けると思ったんだがな……、被害が出る前にさっさと撤収するぞ。あんなの相手にするだけ損だからな、うまいこと敵さんに向かって行ってくれるといいんだが……」

そそくさと回収できるだけの装備を片付けて、撤退の指示を部隊に伝達する。




「いやぁ、無装が現れたおかげで戦果無しだよ全く」

基地に帰ってきて食堂でさっきの戦闘の愚痴をこぼす。

「まったくですね、隊長の判断が早かったおかげで被害は殆どなかったですけど、そもそも無装勢力って何なんですかね? 話には聞いていたんですけど戦場参加してる戦闘に現れたのは初めてなんですよ」

「あー、よくわかんないんだよな。俺も何度か見てるし襲われたって話は聞くけど、誰も詳しい情報を持ってない、どことの戦闘にもぶらりと出てきて両方を攻撃していくし、武装を一切持たないから形式でどこの所属かはかることもできん」

「それですよ、武装無しでどうやって戦場で生き残ってるんですか。その戦場の両者に壊滅的な打撃を与えるとも聞いてますけど」

「どういうわけかこっちの弾は何にも当たらないし、直接陣地に乗り込んで拳を振るうだけだ。一回だけ間近で見たけど怖いぞぉ、拳だけで分厚い装甲板をへし折るんだ」

「拳で……、人間じゃないんですかね?」

「そういう部族の出なのかもしれん。なんせ世界は広いし、俺たちが知っている以上に様々だ。たまたま戦場で生まれなおしただけの戦闘狂がいても不思議じゃねぇ」

何が起きてもおかしくない世界で戦争をしてるんだ、一騎当千の浮浪者が戦場をうろついていても不思議ではないか……

「さて、次の作戦には無装が現れないことを祈ろう、さっきの作戦と違って今度は勝算もあるしな」

「え、さっきの作戦には勝算無かったんですか?」

「ん、まぁ内緒の話だが俺の見立てじゃ、無装が現れなけりゃあ被害は部隊の半分、作戦成功率は4割ってところかね?」

「それってつまり……」

「内緒の話だぞ内緒のな」

隊長は何やら含みのある言い方をしているが、それから察することができた話が真実かどうかは、僕にはわからなかった。

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