第1103話:シクーラ・メイニンド~新陳代謝~

「所長~、どこですかー?」

 最近入所した人工生命体研究所、所長を探しているんだけどどこにいるのか全く分からない。

 無駄に広い研究所に僕と所長しかいないので、誰かに居場所を尋ねるということもできない。

「うーん、新しい実験の話を聞いてもらいたかったのになぁ」

 所長はいつも研究所に泊まり込みで適当なところで適当に寝ちゃうから出所したらまず探して起こすことから始まる。

 昨日、何の仕込みをしてたかなあの人は。

 培養室だったかな、錬金釜の部屋だったかな、それともサーバールームだったか。

 それとも帰った後にまた何か新しいことを始めていたかもしれない。

「あ、いた」

 どこの実験室にもいなくて、事務室に寄ってみたら床で書類に埋まって寝ていた。

「起きてくださいよ、所長」

「うーん? うん? ああ、シクーラ君かおはよう、君は朝早いんだね」

「全然早くないですよ、今何時だと思ってるんですか、昼前ですよ」

「おや、もうそんな時間? 一人が長いと時間の感覚がおかしくなってダメだね」

「昨日何時に寝たんですか」

「うーん、わからんね、気付いたら寝てた」

「気を付けてくださいよ、不摂生たたって死にますからね」

「うん、うん、わかっているとも。それで、何か用かな?」

「あ、そうだ。えと、新陳代謝によって体を構成している細胞は入れ替わっているわけじゃないですか、昨日と今日では少しずつ変わっていっていずれは全身が入れ替わるんですよね」

「それで入れ替わったらそれは新しい生命体ではないかと言いたいのかな? それは残念ながら当研究所の目的とすることとは違うなぁ。あと、細胞はすべて入れ替わるわけでもないしね」

「いえいえ、その新陳代謝のメカニズムの計測をすることで何か新しい手法が見つかるのではないかと」

「うーん、なるほど。確か昔そんな研究をしてた人がいたような気がする……、結果がどうなったかな、データがあるはずだから、探して自分の研究の足しにしてみるといい」

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