第1069話:ジュン・イツムラ~主人公を見た~

 彼はそれほどまでに輝いて見えた。

 ただすれ違った僕には彼を彩る物語は何も知ることはできないし、彼からしてみれば僕は認識すらされないモブだ。

 僕は僕で、僕の物語の主人公だっていう自覚はあるけど、それでも彼とすれ違った僕はその瞬間だけ間違いなく彼の物語のモブの一人だった。


 人生の主人公は自分であるという話がある。

 それはあくまで自分にとっての物で他人にとってはそうではないなんてことはよくあることだ。

 だけど、それを自覚してしまうなんていうことはない。

 自己肯定力が著しく低いとかであれば常に自分のことをモブだと認識して生活しているなんてこともあるかもしれないが、僕はそうではない。

 たまに、相対した会話から「こいつ主人公っぽいな」って思うことはあるんだけど、それはその時の話の流れとか、言葉選びとか、選択の結末とか、そういう物を見て感じることだ。

 街ですれ違っただけで、主人公だなんて思わない。普通は。

 それだけ彼の主人公力が高いということなんだろう、ただ慌てながら自転車で走っていただけだというのに。

 本当に主人公な奴って言うのは、他人の人生においてもめったなことにはモブになんてならないものなのだろう。

 僕ももう少し主人公力を高めないとな。

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