第989話:ノーリ・イダマ~芳香の方向~
「いい匂いがする」
甘い、誘うようないい匂いだ。
「まったくわからんが」
「お前には鼻が無いからな」
隣に座るはソリッドな顔をした友人、眼球はあるが鼻はない。口はそれなりのものを備えている。
「嗅覚はあるぞ」
「匂いを数値化して把握するだけだろうお前のは、感覚としてのいい匂いってのはわからんのさ、それじゃあな」
「なるほど、この植物が発する分泌液の腐敗によって発生する匂いがそんなにいい匂いか」
数値をなんかのデータベースと照らし合わせて匂いの元を推測するな。
「表現に気をつかってくれよなぁ」
「嫌味に嫌味で返しただけだ、嫌味で返すな」
「率直な気持ちってやつだよ。芳香と臭気を同列に語るような奴に対するな。あっちからだ、行ってみようぜ」
「しかたないな……。まぁ私も詳細は把握しておいきたい。近似の匂いに覚えはあるが、一致する匂いに覚えがない」
「へぇ、じゃあ珍しい花とかなのかな」
こいつは結構いろんな知識を持っているのに、知らないものなんて珍しい。
「新種の花だったら登録料で飯食いに行こうぜ」
「雰囲気だけ食べに行くか」
「ひどい目にあったな」
「なかなか新鮮な体験だった」
探しに行った花は所謂食人植物の類であった。
ツボ状の器官の中で醸造された蜜の匂いで動物を誘って食う奴だ。
やけに活動的で、視認できる範囲に入った瞬間にツタで襲ってきやがった。
こいつがいなかったら逃げきれなかっただろう。
「たぶん新種だったけど、どうする? 申請するにはあれを捕まえるなりしないといけないけど」
「行かねぇ、甘い匂いに誘われるのはもうごめんだ」
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