第966話:クエージス・タライムフィア~心の堰~
人に甘えられない生き方をしてきた。
他人が他人に甘えているのをよく見ていた、その顔も、顛末も。
そうして、気付けば私は他人に甘えるということができなくなっていて、すべてを自分で抱え込んでいた。
次第に自己の澱はたまり続け、これを甘えられるぐらい好意のある他人にこんなものを流し込むのは無理だと、心を強くして、たまったこれを漏らさないように、優しい誰かが気付いて受け皿にならぬように、心を固く。
閉ざすわけではない、フィルターを掛けて、澱みを外に見せるな、強くなれ、思考の循環の果てに至り、今。
「もう無理だ、つらい、死ぬ」
「なんだいなんだい、今日はやけに弱気だね?」
私は甘えることを躊躇わなくなっていた。
ソファで隣に座る彼女に寄りかかり、弱音を吐いて撫でられる。
そこにはかつての人に甘えられないなんて言っていた私の姿は無く、どっぷり甘い彼女との時間を堪能するだけの塊と化していた。
これは私が弱くなったのではない、あれから私は強くなった。
弱くなったことなど一度もない。
ただ、彼女が心の堰のバルブコントロールがうまかっただけの話だ。
本当に彼女には感謝している。
いつの間にか近くにいて、遠くも近くもない距離にいてくれて、向こうの話はしてくれて、私の話も聞いてくれて、気付けばつらいことの話もしてて、いつの間にかこんな関係になっていた。
彼女が甘え方をコントロールしてくれていたのか、私の甘え方がうまかったのかはわからないが、甘えられないなんてことは無くなった。
しかし、彼女がいなければ、私が存在できるかどうか怪しくなってしまった……
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