第964話:フィング・ボウサン~道端殺人事件~

「これは……」

 植え込みのふちに倒れるやけに小さな誰か、傍らに転がる推定凶器……

「事件だな」

 現場の状態を見て、一言つぶやいた。

「事件!?」「事件か!」「事件ならば犯人がいるな?」「犯人か!」「誰だ!?」「お前か?」「俺じゃないよ!」「俺でもない!」「迷宮入りだな?」「迷宮入り!」「解散!」

「いや待てお前ら」

 呟きに応じて植え込みから何やら小さいのがたくさん出てきて口々に何か言った後、散って行こうとしたのでつい止めてしまった。

「これは……」「あれですね?」「間違いなく」「あれだ!」

「なんだ……?」

 勝手になんか納得して、期待の目で見られている。

「探偵じゃないの?」「犯人はこの中にいるっていう奴」「言わないのか?」「じゃあ俺が言うぜ」「犯人はこの中にいる!」「お前が言うのか!」「誰が犯人なんだ……」「しまった、アリバイが無い」

「いや、俺は単なる通りすがりで……探偵とかじゃないんだが……」

 しゃがみこんで話しかけるが、どうやら探偵役を期待されているらしい、しかしこいつらやけにはしゃぐな、見たところ倒れているのはこいつらの仲間とかだろうに。

「探偵、やってくれない?」「俺ら、全員顔見知りだから」「誰がやったのか皆目見当つかんのね」「自己紹介からするか?」「しようか」

「いや、しなくていい」

 数が多いし、似たような顔をしているし、言われても覚えられないし、

「そもそも探偵役はする気がない」

「そんなー」「事件は迷宮入りです」「探偵人生初の黒星」「解散!」

 また適当なことを言って、植え込みに消えていった。

 被害者役まで含めて。

「なんだったんだ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る