第955話:フロムド・カンニス~夕暮れの時~

 夕暮れの景色をふとした瞬間に思い出すことがある。

 それは夜に差し掛かる時ではなく、記憶にある夕暮れと重なる景色を見た時で、二度と見ることは叶わない、そういう記憶だ。

「いや、夕暮れ時を再現した場所はあるよ」

「なんて?」

 オレンジ色のスポットライトをあちこちに向けながら飛んでいく飛行機に夕暮れを思い出してポエミーになっていたら、横で本を読んでいた無粋な友人が口を挟んできた。

「常に夕暮れ時な町があるんだ、知ってるか?」

「知らない、でも興味はある」

「その町の名だが、終わらない夕暮れを意味する【グロウラスフルブスト】。実態は、まぁ行ってみればわかる」

「なんだ、歯切れの悪い言い方だな」

「なんというか、夕暮れが見たいというから挙げてはみたが、思っているのとは……違う、でもないかな……?」

「なんなんだ」

「まぁ、行ってみるといい」

「まぁ、行ってみるけど……」


 ターミナルまではついてきてくれたけど、ゲートまでは来なかった。

 なんなんだあいつは。

 そんなことを思いつつゲートをくぐると、無人のターミナル。

 人が転生してくることは無く、単純にゲートがある場所としてのターミナルだ。

「人、全然いないのかな?」

 人が集まる場所には自然と人が転生してきてターミナルができると聞いたことがあるが、ここはそうではないらしい。

 安定してともる案内表示に従って外に出てみると、見事な夕暮れだった。

 空は橙に染まり、町もそれに照らされて橙。

 私が思い描く夕暮れの絵はこういう感じで、頭に過る絵と目の前の景色が一致した。

 しかして人の気配はなく、

「まるで廃墟だ」

 誰も住んでいないのだろうか。


 しばらく座って景色を見ていたけど、なんとなく彼が言っていたことの意味が分かったような気がした。

 ここには夕飯時のあわただしさもなく、夜が近いことで生まれる何かも無い。

 あるのは無限に続くさみしさだけだ。

 誰も住んでいないのも、わかるような気がした。

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