第946話:オルト・ハラニカ~変声風~
「けふんけふん」
うーん、のどの調子が少しおかしい、変な咳も出る。
今日出かけるのはやめておこうかな、いやでも今日の集会は絶対に出たいし、のどの調子の悪さ以上の不調は出ていないので、まぁ問題はないだろう。
やたらとピューピュー鳴らしているこの風が悪いものを運んできただけの可能性もあるし、人から人へ移るようなものでもあるまい。
「やっほ、久しぶりって言ってもいつもチャット上では会っているか」
軽い挨拶をしてすでに来ていた二人の間に加わる。
「いやいや、文字ベースの会合もよいですがたまにはこちらの生身で肉声を用いたコミュニケーションも行わなければ、相手を想定する距離感というのも忘れてしまう、定期的な会合も必要なものですよ。久しぶり、というのも」
「はいはい、話が長いよ君は。ところで、オルト君って君、そんな声だっけ?」
「え?」
「うんうん、聞こうか迷ったんだけど、その前にハルちゃんに止められてしまって聞けなかったんだよね、普段よりも数段高い声だ、喉でも差し替えたかい? こちらの声も私としては好みだけど、以前の声も好みではあったんだ、あの声が聞けなくなると思うと少し寂しくも」
「ススキノさんはチャットの時の寡黙さと足して割ったぐらいのしゃべり方はできないのかい? イメチェンかな、僕もその声いいと思うよ」
「いやいやいや、ちょっと待ってくれよ。俺の声、どうなってるんだ?」
喉の調子は悪いが、そんなに声が変わってるのか? あー、あー、自分ではわからん。
「気付いてないのかい? そうだな、声質で言えば……、ノンコンポルパートのユニカに近いかも。えーと、右2番目の子なんだけどわかるかな。結構可愛い声だよ」
そういって写真を見せられる。
「つまり、今俺から、こんなかわいい子と似たような声が出てるってのか?」
「うん」「その通り、いやぁ気付いていないふりなどせずとも私達であれば、どういう趣味があっても受け入れるとわかっているでしょう、その程度の信頼ぐらいはあると思っていたのですが、」
その後も「その声ならこういうしゃべり方を参考にするといいかもね」とか「姿も声に合わせるべきでは? いい服飾職人を知っているんだが、ちょっと連絡をだね」とか「いやいや、趣味は声だけかもしれないよ。全身というのはまた話が変わってくるでしょ」とか勝手に話を進められるものだから。
「だから、趣味じゃないって言ってるだろ!」と怒ったところ
「お、怒って張った声も結構いいね」
「うむ、大声であることでより要素が見えるようになった、しかし大声を繰り返しては喉を傷める、まずは発声練習を繰り返した方がよいのではないだろうか?」
ダメだ、完全に聞いてない。聞いているのに聞いてない。
これもなんかよくわからん風のせいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます