第868話:ヒスイア=ジーニドロ~戻れぬ世界~
「あの世界からは帰ってこれない」
そういう噂を耳にするようになったのは何時頃からだろうか。
いつも出入りしているコミュニティから人が減り始めて、気付けば元居たメンバーが半数を切ってからのことだっただろうか。
「ちょっと様子を見に行ってみる」そう言って消えた者達が最後に言っていた界隈へのもぐりを敢行した者もいたが、それらも帰ってこなかった、いや、いくつか「こっちはいいぞ……」というメッセージは帰ってきていたか。
さて、やはりここは様子を見に行ってみるべきだろうか。
「やめておけ」やら「どうせかえってこれない」等のことを言われたが構うものか。
どうせ、主要メンバーの抜けたこのコミュニティには未練もそうない。
「ようこそ。ここへくるのは初めて、かな?」
「あ、はい」
そのコミュニティの集うホールのようなところに入室したらすぐに声を掛けられた。
しかし、それ以上の返答は無く、彼女はその場に笑顔で立ち尽くす。
まるでゲームのNPCのような受け答えをする人だな、と思ったけど、それはそうか。
ここは人であることをやめてもいい場所だった。
彼女は、人間であることを放棄してNPCとしての立ち位置を選んだのだろう。
なるほど、よく見るとホールのあちこちには人の姿をしているものの、人でないような者がちらほら見かけられる。
ランプを掲げて固まっている、街灯になっている物や、あれはなんだ、テーブルか?
屈んで板を持ってその上に物が載っている。
もしかして、帰ってこれないってそういうことか?
「またね」
そんな風に
「帰れるのか……?」
「そりゃあ、帰れるでしょ」
「帰れないって聞いてたんだけど」
「……? あーそういう話、なるほどなぁ」
納得がいったようで、外に出てから話をしてくれた。
「帰れないっていうか、ここから出るのは精神的に難しいって感じかな。一時的に家に帰れても、またすぐに来たくなっちゃうんだよな。だから、もともといたコミュニティには戻れないことが多いって感じかな」
「あぁ、そういう」
まぁ想定した通りか、さっきの少し異様な光景にビビっていたけど普通の話だった。
「人でなくてもいいってのは、そんなにもいいことなのか?」
「まぁ、わからない人が多いとも思うけど、いいもんなんだよ。少し通って、みたらわかるかもしれないね。人をやめて何をやりたいかはおいおい探してみるといいよ」
「街灯やってて楽しいか?」
「もちろん、わかってもらえないかもしれないけど、聞いてくれるかい?」
その後彼は数時間にわたって続いた。
正直良さはわからなかったが、とても楽しそうな彼を見ていると僕も楽くなってしまって、話し終わった彼と連絡先を交換して僕はまたホールに戻った。
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