第857話:ヒガシ・ヒンジ~存在力不足~
あんな子、いたっけな……
教室の中央辺りの席に、見覚えのない女生徒を見かけた。
他のクラスの奴か? と思ったけど、授業の時間が終わってすぐのチャイムが鳴ったときの話、他のクラスが早く終わったとしてもこんなタイミングで入ってこられるものではない。
そもそもあの席って誰が座っていたっけ?
全然記憶にない。
じゃあもしかして今日初めて来たのかもしれない。いつもは空席で、今日初めて学校に来てあの席に……と思ったけど他の席は記憶通りの配置であの席だけずっと空席だった記憶がない、かといって誰かが座っていたような気も座っていなかったような気もする。
もしかして、単純な話ずっとそこにいたのに存在感が無くて気付かなかっただけなのか……?
「よう、」
気付いてしまったので話しかける。
一応名前はあらかじめクラス名簿で確認済みだ。
「フルスカ」それが彼女の名前だ、びっくりするほどなじみがない。
この教室で勉強をし初めてかれこれ2年とちょっとなのに初めて発声したかのような感覚だ。
「なに?」
振り向いた彼女の顔はなんというか儚げで、
「あ、いや……」
なんて、面食らっているうちに彼女は消滅してしまった。
「……え?」
文字通り消滅した、彼女は逃げ出したとかじゃなく、消えた。
幻覚だったのだろうか、そんなことを考えながら翌日教室へ行って彼女の席を見てみると彼女はそこに居た。
昨日はあまりに早すぎて逃げ出すのが見えなかっただけかもしれない、そう考えるとまた逃げ出されてしまうのではないかと思って声はかけられなかった。
授業中、斜め後ろからちょいちょい彼女の方を見ていると気づくことがあった。
彼女は授業中にもちょくちょく消えているのだ。
スゥーっといなくなっては気付くと居る、そんな感じに現れたり消えたりする。
「あのさ、昨日……」
全ての授業が終わってまた声をかける。
「あ、ごめん。ちょうど話しかけられた時に消えちゃって」と向こうから謝られてしまった。
「昨日はちょっと頑張ってたから、存在力が足りなくて」
彼女が言うには一日に出せる存在感には限界があって、それがなくなると消えてしまうそうだ。
「でも今日は謝るために授業中消えたりして溜めてたから大丈夫! 何の用だった?」
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