第850話:トーパルド~ウニョン螺旋~

「なんだあれ」

「何って、ウニョン螺旋よ」

 入ったカフェにあった謎のオブジェ、形容しがたい妙な動きをしている。

 周期的な動きではあるが、なんだか目を引くそれを最近こっちへ来た同居人は何のことなしに答えた。

「ウニョン螺旋?」

 聞いたことのない響きだ、ウニョン、ウニョン?

「そう、ウニョン螺旋、薄い板が螺旋状に回転しながら動くオブジェなんだけど……知らない?」

「うん、初めて見た」

「へぇ、私の地元じゃよく見たけど、この辺りじゃ珍しいのかも」

「あ、もしかしてこのお店の人リアラの同郷なのかもよ?」

「うーん、別にどうでもいいかな」

 そういうリアラはウニョン螺旋の方を見て「そっか、この辺には無いんだ……」と寂しげにつぶやいた。


「あれ……、ウニョン螺旋ってどこで手に入れたんですか」

 今日は僕が支払うよと、リアラには先に店を出てもらって、カウンターで店員さんに尋ねる。

「ウニョン……? あれ、そういう名前なんですか?」

「らしいですよ、まぁ名前はどうでもいいです、どこで手に入るんです?」

「うーん、どこでって言われても……、あれ実はいつの間にかあそこにあってですね」

「誰かの忘れものってことですか?」

「いやぁ、休日明けて店を開けようと思ったらあったから、忘れ物ってことはないと思うんだけど……」

「譲ってもらっても?」

 なんとなく、リアラがウニョン螺旋を見ていた表情を思い出した。

「うーん、譲れるなら譲ってもよかったんですけど、あれはちょっとあそこから動かせなくて……」

「そういうものなんですか?」

「どうにもそうみたいで」

「そうですか……」

 何とも煮え切らない態度だったが、いつまでもリアラを待たせているのもと思い支払いだけして店を出た。


「ウニョン螺旋、譲ってもらえた?」

「いや……って知ってたのか?」

「うん? そんな気がしただけだよ。まぁ譲ってもらえるものじゃないから、欲しくなるのもわかるけどね」

「そういうもんなのか?」

「そういうものなんだよ、また機会があればほしいけどね」

 ネットで探してみるか……

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