第833話:ラーバ・ホウスン~欲を出す~
「人に欲を見せるなよ、死ぬぜ」
師匠からは散々そう言われていた。
そんな師匠は欲に塗れた人間で、普段からアレが欲しいコレが欲しいとすぐに手に入れて、いつだって金欠で、それを反面教師にして禁欲的に過ごしていた俺にたかってくるような人間だった。
そして、長生きした上で死んだ。
最後の言葉は「いやぁ、やることやりきったいい人生だったな」だった。
俺が知っている限りでは一度も欲を隠しているなんてことは無かった。
そのあと、20年ぐらいの時間をつつましく禁欲的に過ごして、特に悔いることなく死んだ。
「お、ようやく来たのか。お前はもうちょっと早く来るものだと思ってたが」
して、この世界で師匠と再会するのは必然だったらしい。
「それはどういう意味で」
「そりゃああれだ、お前は欲を隠すのが苦手だったからな」
あれじゃあすぐに殺されそうだったのにな、とそう続けられた。
「俺が欲を隠すのが苦手? そんなことはなかったでしょ、それは師匠の方が欲ダダ漏れで、そのくせ長生きで、」
「いんや、お前は自分の欲に無自覚だったからなぁ、見せるなって言って結局分かりやすい欲ばかり持たないようにして隠した気になっていたもんな」
「それは……」
「欲を見せずに生きるってのはな、弱みを見せずに生きるってことでもあるんだ。例えば、お前が言う俺の見せた欲の中でどれか一つでも俺が諦めそうにないものがあったか?」
「そういわれてもどれも欲を見せたとたんに手に入れていたから……」
「そういうことだ、欲を見せるときは欲を満たせるとき、満たされて消えた欲は弱み足り得ない。いやぁ、まさかこれを教えるのが死んでからになるとはなぁ、聞かれたら教えるつもりだったのがよくなかったか」
気付くと思ったんだけどなぁ、と言われても……
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