第787話:ダッカン-ジーベス~乗合エクスプレス~

 列車移動なんて非効率的だと思っていた。

 時間はかかるし、振動はきついし、無駄に料金は高いし、ある意味での嗜好品だ。


「なのになんであん畜生は移動を列車に限定するんだろうなぁ」

 上司の指示で、僕の営業先への移動は基本的に列車移動だ。

 だからだいたい移動だけで3日とかかかるし、やることも少なくて結構苦痛なんだ。

 寝台から出ずに寝て過ごすなんて僕には到底できやしなくて、変化量だけは一級品の景色を見に座席スペースに移動する。

 通り過ぎる山、川、海、雲、森、灰原氷、原、砂漠、あらゆる景色を置き去りにして進むこの柔らかい座席に座っていると、振動でろくに眠れてなかったこともあって眠くなってくる。

「相席してもよろしいですか?」

 そんな感じで座りながらうつらうつらしていたら、声を掛けられた。

「あ、どうぞ」

 何にも考えていなかったから適当に承諾してしまったが、周りにはいくらでも空いている席がある。

 そもそも、他に乗客がいたことすら驚きなレベルで空いているのだ。

「どうも、」と対面の席に座って、話し出す。

「私、列車が結構好きで、いろんなところへ列車に乗って行くんですけど、あんまり人と会わなくてですね」

「そりゃあ、この世界で趣味以外で列車に乗る奴なんていませんからね」

 そして、列車自体はこの世界に無数に走っている。

 いくら列車好きが乗っていても示し合わせなく同好の士に出会う確率なんてほとんどないだろう。

「じゃああなたも趣味で?」

「いや、僕は仕事で」

 その後、いろいろと列車の魅力を語られたり、僕の愚痴を楽しそうに聞いてくれたりした。

 列車に乗るのは好きだが、人と話すのも好きで、列車の話をするのがとても好きらしい。

 僕が仕事でいろんなところへ行くのに列車を使わされるという話をしたら「羨ましいと」言われた、列車に乗ってさらにお金までもらえるからだと。

 いや、列車に乗る分のお金を出してもらえはするが、列車に乗った先で仕事をするからお金がもらえるのだが。


 その後もなんだかんだで話がはずみ、気付けば目的の駅に着いていた。

 駅で連絡先を交換し、次に仕事でどこかへ行くときは同じ列車に乗ることを約束するなどした。

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