第706話:キランブ-リュノシカ~止むことのない雨~

「朝から雨が降っていた」

「昼を過ぎても降っていて」

「空は閉じ、雨をまき散らす天蓋となった」

「それ以降その街では常に雨が降ることになったのです」

「これがその街の終わりで」

「この街の始まり」

「終わることのない雨空は」

「いつかこの街の常となり」

「この街はそうなった」


 途切れることのない雨音をBGMに、酒場にて瓜二つの少女は歌う。

 この街の始まりを歌ったものらしいが、本当に雨で一つの街が終わるものかね。

 この街は確かに雨がずっと降っている、水を逃がす機能はしっかりしているのか街は沈んだりはしていないし、もし当時はそうでもなくて沈んだとしても、同じ場所に街を作るものだろうか。

 しかも雨もやまない内に。

 沈んで、雨も降っていて、そんな中こうも高度な治水をして、雨と共に生きるなど普通はできるものじゃない。


 雨が降り続いている。


 この街は雨に関する名物名所が多くあり、特産品は傘だ。

 テルヴィア産のハイテクリング型とか、携帯端末デバイスに入れられる水を弾くアレとかじゃなくて、撥水加工をした布を張ったりしただけの傘だ。

 なかなかしっかりと雨を弾くし、これはこれで風情があっていい。

 風情を楽しみながら雨の中散歩していると、喧嘩のような声が聞こえてきた。


「おい、大丈夫なのか?」

「なんとかなるはずだ」


 なんだろうか、この雨の中濡れながら喧嘩しているような。


「降雨装置の調子が悪いって、雨が止んだらこの街は終わるぞ」

「今、グルヴェートから魔機構技師を1人呼んでる。代金は結構なもんだが、腕は確かな奴だ」

「そうか、それならいいが……」


 っと、こっちへ来るな。

 今の話を聞いたことがバレたらちょっと面倒なことになりそうだ。

 丁度雨で足音も目立たないことだし、さっさと立ち去るとするか。

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