第692話:ヨニド=アージオン~連鎖事故~

 事故を見た。

 車と車が接触してお互い少し外装が凹んだだけなのだが、どちらも相手もお互いの責任であることを譲らない。

 実際どちらにも責任があるとして自分の責任の割合を減らし合うのに必死だ。

 罵倒と記録をセットで押し付け、お互い自分の無実を主張する、運が悪いことに、いやこんな場所だからか。

 この辺りは監視システムがなく、自分で自分の無実を証明する必要があるんだ。

 お互いに責任を明確にし、査定官を呼んでお互いの責任を伝え、被害状況からお互いの支払いを差し引きして賠償金とするというシステムだからだが、さっさと呼べばいいのにとも思う。

 外から見ている感じではお互いにお互いの不注意だったし、5:5だろう。

 だから不毛な言い争いだ。

 そんな不毛な争いを観戦するのが俺の趣味なんだ、俺のっていうかこの辺に住んでるやつのか。

 まったく性格が悪い、っと、決着がついたらしい。

 聞こえてくる感じ3:7ぐらいか? だいぶ口が上手かったらしい。

 査定官を呼ぶようだ、もうこれでイベントは終わりかな、と視線を外した時、大き目の車が言い争いのために停まっていた2台の車に突っ込んだ。

 当然のように2人は唖然としていたが、先に表情が変わったのは責任7割を充てられた方だ。

 まぁーこれがまたうざったらしいほどの笑顔になる。

 この場合新たに突っ込んできた奴に全部の責任を押し付けることができるわけだからな。

 しかも完全廃車コース、さっきの言い争いからは想像もつかないが、どちらも今までの車に思い入れは特にないらしく他人の金で新車が買えるとなれば喜ぶ、3割の方も顔が複雑な思いながらも緩んでいた。

 とまぁ、2人はそうだろうな、と外から見ていたら思う。

 しかし、突っ込んできたでかい車の持ち主を見てもあの表情を崩さずにいられるか……


 案の定、でかい車から降りてきた奴を見て2人の表情は固まった、責任の押し付け合いが成立するのはまぁ当然のことだが口が通じる場合に限る。

 降りてきたのはあからさまに「パワーオブパワー」という感じで話し合いに応じるとは思えない風貌をしていた。

 査定官が見るのは車同士の損害の具合だけ、人の怪我損傷は考慮しない。

 このままじゃあ一方的な説得暴力で5:5:0ぐらいにされかねない。

 抵抗すれば命がないかもしれないからな。



 結果から言えば、0:0:0になった。

 というか全員どうしたらいいのかわからなくなって査定官すら呼べなかった。

 というのも、でかいのが車から降りて2人に詰め寄っている間になんだかよくわからない程でかい何かが通過していって、3人の車をすべて道路と同化させてしまったからだ。

 あれはいったい何だったのか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る