第667話:ホーイル-サイトルーマ~当たり前アップデート~

携帯端末デバイスっていつからあるんだっけ?」

 気になって友人に話を振る。

「この世界に生まれた時からあるだろ」

 何のことないように返される。

「いやいや、そんなことないって。俺がこの世界に来た時はまだこんな便利なものはなかったはず」

 俺がこの世界に来たのはだいぶ記憶が曖昧だが80000年程前のことだ。

 まだ戦争をしていた時代だったはずだし、携帯端末デバイスなんていう科学魔法の複合アイテムなんてものが存在していたはずはない。

「あー、そうだっけ? 戦争してたことも忘れてたわ、そうかあの戦争ってこの世界でのことだったか」

「さすがに昔過ぎるか」

「じゃああれじゃないか、携帯端末デバイス自体も戦争が終わってから……大体いつぐらいだ?」

「わからん、ちょっと調べてみるか」

 携帯端末デバイスを操作して、携帯端末デバイスの歴史を出す。

「まじか……」

 そこに記されていた衝撃の事実に青くなる。

「どうした?」

 覗き込んでくる友人にも見えるように画面を拡張してやる。

「最初の科学魔法の複合デバイスが開発されたのが8000年前……?」

「びっくりするぐらい最近だよなこれ」

「速くても30000年ぐらいかと思ってた」

「だよな、8000年て時間の感覚おかしくなるよな」

 いや、これは思ったよりも最近の出来事だったからというわけじゃないかもしれない。

「時間の感覚うんぬんよりも、今当たり前になってるってのがでかいんじゃないだろうか」

「うん? どういう意味だ?」

「つまり……ちょっと整理するのに100年ほど欲しいところだが、今思いついてるところで話せば、さっきの戦争が前の世界での記憶なんじゃないかっていう錯覚もそうで、今当たり前になってるから最初からあったと思うみたいな……そういうやつよ」

「わからん」

「例えば……、そうだな、確かお前が料理を始めたのは500年ぐらい前からだったよな?」

「そうだな」

「じゃあ料理をする前はどんなものを食べてたか思い出せるか?」

「……わからん。あー、なんとなく言いたいことがわかった。あれだろできるようになったらできなかったときにどうしてたかまったく思い出せないやつだ」

「そうそう、なんとなく常識が更新されるような感覚。思ってるよりあるのかもなこういうの」

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