第661話:ホーア・ファズ~無い話~

「こないださ、帰り道に変なポータルが浮かんでてさ」

 帰り道、話すネタもないなと思っていたら相手の方から話出した。

「それで?」

「金色の変な模様が入った輪っかのポータルで、どこに繋がってるかわからなかったけどとりあえず面白そうだったから飛び込んでみたんよ」

「ふんふん」

 ……?

 いやいや

「それは無いだろ」

 思わず話を遮ってしまった。

「なんで?」

「なんでもないだろ、どこに繋がってるかもわからないポータルに普通飛び込むか?」

「いや飛び込むだろ」

「いや無いだろ。まぁいいや、続きは?」

 あったらしい話を否定してても意味無いし続きを聞くか。

「そんでさ、ポータル抜けた先は漫画で見たことあるような魔術工房で、いろんな作りかけのマジックアイテムとか置いてあってさ」

「いや無いだろ」

「なんで?」

「そんな、魔術工房に繋がるポータルが道端に開いてるとかある?」

「いやあるかどうかは知らんけど実際にあったんだから仕方ないだろ」

「まぁそうか……」

 釈然としないけど

「それで、堪能したから帰るかって思ったんだけどさ、ポータルどころか出口がなくてさ」

「罠だったのか、それでどうしたんだ?」

「いや罠じゃなかったんだけどさ、居間みたいなスペースで寛いでたら」

「おまえマジ? よくその状況でくつろげるな」

「他にやることもなかったからさ、んで暫くしたら工房の持ち主がポータル開けて帰って来たわけ」

「怒られたか?」

「いや、スゲービックリされて自分の不用心さに反省したり閉じ込める形になってごめんみたいな感じで謝られてさ」

「さすがに無い話過ぎるだろ」

「いやあったんだって。そんでこれがお詫びにってもらったお菓子なんだよ」

 そう言ってカラフルなクッキーを取り出した。

 物証があっても信じられん。


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