第627話:カラベラ・ラグ~剣と魔法のドラゴン退治ツアー~

「ドラゴンといえば、知能も高く、思慮深く、領域さえ侵さなければ何も害はないとされていますが、あくまでイメージ、上位の、更に一部の例外のドラゴンの話です。さて、本日は剣と魔法のドラゴン退治ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます。このツアーで退治の対象となるドラゴンは低級のいわゆるレッサードラゴンと呼ばれるような、知能もない大きなトカゲと差別化するのも難しいようなものですので、腕っぷしに自信のない方でも大丈夫!レッツドラゴン退治!」

 なんだろうか、ドラゴン信奉者に対する言い訳じみた演説から始まった、このツアー、つまりはどっかのドラゴンをどっかの世界の伝統に則って、剣と魔法のみで倒そうというツアーだ。

 ロールプレイの観点で見れば楽しそうだと参加したのだが、なんだか開幕の演説を聞いた途端不安になってきた。

「えー、当ツアーで使用できる武器、魔法には制限があり、ボーラニアアライ世界基準の標準的なドラゴンハンターの装備、もしくは魔法のみが使用可能です、必要であればレンタルもあります、具体的な基準は配布した資料をご覧ください」

 その後も、免責やら手続きやらの言い訳じみた説明が長々続き、ようやくドラゴン退治が始まった。




 私が選んだ武器はバスタードソード、ちょっと私には小ぶりだが、選べる武器の中では最も大きいものを選んだ。

 というか、本当にボーラニアアライ人はこんな武器でドラゴン狩りなんてしていたんだろうか、疑問である。

 周囲を見れば、小柄な魔法使いの少女(本人は魔法を使えないが専用の籠手をレンタルした)

 そこそこ背の高いく腕っぷしの立ちそうな棘メイス使いの男(私よりは頭二つ分低い)

 素手の、と言っても全身が武器になりそうな刺々しい岩人。

 以上、私含めた4人のパーティ、プラス案内人が1人。

「ねぇ、案内人さん。本当にこのメンバーでドラゴンを倒せるの?」

 さすがに不安になった私は聞く。

「大丈夫ですって、今まで私が担当したパーティでドラゴンを倒せなかったことはありませんから! 特に、今回はあんな岩人さんやハーフジャイアントさんまでいるじゃないですか、本来なら私のようなサイズ4人で退治するんですから、余裕ですよ」

 本当だろうか、不安しかない。



 武器は失い、後ろには気絶した少女と腰を抜かしたメイス持ち、岩人は動かないが砕けてはいない。

「案内人は……」

 いない、逃げた……?

 どうやら不安は的中したようだ、ドラゴンに会敵直後にメイス使いはメイス持ちに、魔法使いは気を失った。

 岩人は尻尾の一撃で倒れ、私も武器を砕かれた。

 私は多少なりとも体は丈夫だが、文系で普段は武器も持ったりしない、冒険小説を読み妄想をするのが趣味の夢見がちな少女だ。

 残された一人の私がドラゴンを無事に退治するなり怯ませるなりなんなりして、この場から逃げ出せる方法なんてあるだろうか、できれば二人も回収したい。

 逃げる方法を考えている間にもドラゴンはブレスを溜めている。

 どこがレッサードラゴンだよ、知能だけか、知能だけが低級ドラゴンってか。

 ああ、もうだめだと覚悟を決めようとしたとき、目の前が光った。

「いやぁ、まさか全員こうもへっぽこだとは思いませんでしたね、普段は一人ぐらいはまともに戦える人がいるものなんですが」

 光が晴れ、倒れたドラゴンと案内人が目に入る。

「言ったでしょう? 私が担当してドラゴンを倒せなかったパーティはないって、ほら記念撮影しましょう。ほら、メイス使いさん、その子と岩人さんを起こして」




 そうして撮った、苛烈な戦闘の記録のような写真はなんとなく誰にも見せていない。

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