第608話:バウル・マウロ〜境界にて〜

 地面に線が引かれている。

 誰かが引いた線じゃない、自然に引かれたものだ。

 ここは境界線の1つ。

 領土とかそういう物騒なものじゃなくて、世界の境界線。

 今僕が立っている線のこちら側と、線の向こう側では世界が違うんだ。

 この世界には滅んだ世界も生まれてくるって話は有名なんだけど、あまり意識したことがある人は少ないんだ。

 極端な環境の場所はみんな知ってるけど、こういう何の変哲もない場所はあまりみんな知らないんだよね。

 世界の境界はこういうところにあるものなんだけど。


 僕の趣味はこういう世界の境界線を歩くこと。

 こちら側と向こう側では地続きとは思えないぐらいに違ってるから、歩くと面白いんだ。

 行きはこちら側を、帰りは向こう側、歩く距離は大したことなくても、とっても長い距離を歩いた気になれるし、同じ場所を歩いているはずなのに全然違う雰囲気を味わえる。

 あとは、どこへ行こうかとか悩むことがなくていいかな。

 行く先には線が引かれているし、新しい場所に行くにしても、1つの境界線を辿れば別の境界線にぶつかる。

 2度目の人生をただ消費するために過ごすなら、こういう何の生産性もなくただただ無為に散歩するというのはとても贅沢な趣味だと思うんだ。

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