第585話:アラヴォー~幻覚~

 最近、幻覚をよく見る。

 壁にめり込みながら飛ぶ鳥、道路のど真ん中に建つビル、まるで階段でも降りるかのように地面に吸い込まれていく人。

 ヤバい薬をやっているわけじゃないが、引っ越してきてからそういう幻覚を見るようになったし、この街になんらかの要因があるのかもしれない。


 街へ出る、空をゾウが飛んでいる。

 周りの誰も騒いだりはしていないから、きっと僕だけが見ている幻覚だろう。

 幻覚だとわかっているから、僕も騒いだりはしない。

 だから、空を飛んでいるゾウを見ている人は一人もいない。

 誰にも見られない幻覚はそこに存在しているのだろうか、とか思ったりもするけどどうせ幻覚のことだ、気にすることでもない。

 ゾウはいつの間にか消えていた。


「お、ドリルだ」

 地面からドリルが生えていた。

 うっかり口に出してしまったけど、誰かに聞かれて変な奴だと思われてはいないだろうか。

 周りを見ても誰も僕やドリルに注目している人はいなかったので、誰にも聞かれてはいないようだ。

 生えてきたドリルはそのまま空の向こうへと飛んで行った。


 後日、同じ場所を訪れたら穴が空きっぱなしだったので、幻覚とは……?と本当に今まで見てきたあれやこれやが幻覚だったのかと疑うことになってしまった。

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