第583話:ラオ・ハム~にゃーん~

「はぁー」

 橋の下、強い日差しを嫌がって逃げ込んだ先には私とネコが一匹いるだけだ。

 このネコと私は面識はないが、逃げずに近くで避暑にふけっている。

「ねぇ、私今日嫌なことがあったんだけど、聞いてくれる?」

「にゃーん」

 ネコは興味なさげに鳴く。

「私ね、今日仕事を辞めるはずだったんだけどさ」

「にゃーん」

「どうしても忙しいからってさぁ、今季末まで辞めるの待ってくれーってさ?」

「にゃー」

「でもさー、今季末まで待っても絶対忙しいのは変わらないんだよね」

「にゃーん?」

「店長がさ、人集める気がないないんだよね」

「にゃー」

「これ絶対今季末にもさー、あと少しだけ!って言われる奴じゃんね」

「にゃー」

「私にも私の事情があるんだからさ、確かに今季末までならギリギリ大丈夫だけどさ」

「にゃー?」

「そうして作った余裕の間に人を増やさなきゃどうにもならないじゃないのねぇ?」

「にゃーん」

「だからさ、根本的解決を図らない職場にはいつまでもいれません!って言って今季末なんて話も断ってきたのよ」

「にゃー!」

「いいでしょ、でもさ、ちょっと後悔してるんだよね」

「にゃーん?」

「ああいうところは嫌だったんだけどさ、なんだかんだでずっと良くしてもらったしひどいことしちゃったかなぁって」

「にゃー」

「君はどう思う?」

 ネコは返事もせず、日向へと歩いて行って毛づくろいを始めた。

「恩を差し引いても嫌だと思ったから辞めてきたのだろう、後悔することはない」

「え?」

 どこからともなく、返事が来た。

「なんだ、私に問うたのだろう?」

「え、ネコ?」

「いかにも、私はネコだが」

 このネコ、話すのか……

 やけにいいタイミングで相槌を打つなぁとは思ってたんだけど。

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