第559話:イァグスタ~何でもできる自分の力~
指輪が日の光で輝く。
手を振るだけで本棚から目当ての本がひとりでに飛んできて、僕の手の中に収まる。
これは僕の力だ。
この世界に来て手に入れた、僕の力。
ただ物を呼び寄せるだけの力ではない、万能の力だ。
ただ、僕の必要としない関係上使い方にバリエーションは少ないが、やろうと思えば何でもできる。
なんでもできるのだ。
なんでもできてしまうんだ……
そう、僕は何でもできるがゆえに最近は特に何もする気が起きなくなっている。
だから今は日がな一日本を読んでいる。
結局それに必要なこの、本棚から本を呼ぶという程度の使い方しかしていないというわけだ。
非常によくない、何もすることがないから何もしていないということ自体はいいんだけど、怠惰に沈んでいくというのはなんとなく許容しがたい。
よし、久しぶりに外出しよう。
目的地を頭に思い浮かべて腕を振る。
一瞬で景色は切り替わり近所の自然公園に移動した、これも僕の力の一端だ。
普通ならここで外の空気は気持ちがいいとか思うんだろうけど、僕は部屋の大気状態も力を使って正常に保っていたんだった。
普段と違うところは景色ぐらいのものだ。
……何もなくて退屈だな。
次へ行こう。
次へ、次へ、次へ、五か所ほどなじみのある場所へ移動したが、どこも退屈で、危機感を覚える。
怠惰というのは興味も鈍らせるということを学べたのだけが今日の収穫だな。
手を振って、家へと帰る。
家へ帰り、手を洗い、いつものソファに座って本を読もうと本棚に手をかざす。
何も起きない。
二度三度、手を振っても何も起きないところで気付く、先ほど手を洗った時に指輪を外したんだった。
あの力は僕の力だ、僕の持っている指輪の力。
洗面台に戻り、指輪を手に取ろうとしてうっかり落とす。
落ちて転がって指輪は棚の下に入り込む。
……さてどうしようか、棚を持ち上げようとしてもピクリとも動かない。
久しぶりに工夫なんてものをすることになりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます