第556話:ドロースⅥ~契約の話~
金を借りて契約を結んだ時のことを思い出す。
理由なんて単純な話だ、この世界に来てまだ日の浅い時にうっかり他人の厄介ごとに首を突っ込んだとかそういう話。
それで大金を要求され、それを通りがかりのあいつに肩代わりしてもらったというのがことのあらましだ。
実際のところ、格好つけたらトチって死にかけているところを助けてもらった形になったのだが、善意でのことなので礼はいらないだの言われ、納得のいかなかった俺が無理を言って返済の契約を結んだのだ。
その時は大まじめだったのだけど、思い返してみると契約の文面を作るのはとてもおかしいことになっていた気がする。
お互いが相手に有利になるように文面を改変しようとして難航したのだ。
あいつは返してもらわなくてもいいと言い、こっちはきっちり返すと言う。
最初こっちは利息も契約に含めようとしたがそれを入れるなら契約は断ると言われ、契約しないといわれてもずっと契約を迫るし勝手にこっちで利息計算して返し続けると言ったりとそういうやり取りの末にようやく公式な書面を作成してお互いの合意を半ば無理やりにだが得て、返済契約を結んだのだ。
返済を毎季何日にと決めようとしたりもしていたが、結局は払えるときに好きに返してもらえればいいということになり、これは縁だからとどうしても必要になれば追加で金を貸すことも承認させられ(結果として役に立ったのだが)、返済効率を上げるためと無償で回復ポッドをプレゼントされたりと結局のところ、こちらの都合で契約してもらったので向こうの要求もいくらかは飲まなければならなくなってしまった。
どう考えてもこちらに有利になりすぎているのだが、あいつ側に都合が良いという、不思議な契約になったのだ。
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