第549話:チジャ・レーマスⅣ~秘薬屋の思い出~
「あら、いらっしゃい」
「前に頼んでたあれ、できてる?」
「ええもちろん。ところでこんなものを使ってどこへ行くの?」
平衡感覚を強化する薬、切断された肉体が一時的に繋がっているかのように振舞える薬、空腹を補う薬等々。
「腕を失わないと入れない遺跡ってのがあってさ、他にもいろいろな縛りがあって、それを攻略するのに必要なんだ」
「ふぅん?無理もたいがいにしてよね、うちの薬でも死んだものを生き返らせるとかはできないんだから」
「ああ、わかってるよ。じゃあ、また」
「ええ、またね」
「ねぇロメリス。変じゃなかった?」
「いつも通り、少し浮かれてましたけどいつも通りの師匠でしたよ」
「そう?ならよかった」
「そういえば、どうして彼のことをそこまで気にしてるんです?」
「さて、ちょうどここにさっき売った切断された肉体が一時的に繋がっているように振舞える薬の余りがあることは承知の上で聞いてるんだろうねぇ?」
「ああいや、そこまで突っ込んだことを聞きたいわけじゃないんですけど、彼に渡す薬だけ他の人のよりも優先するし、値段も少し安く売ってるでしょう?」
「まぁ、そうだねぇ」
なんだ、今日はやけに気にしてくる。
いつもなら、腕の一本でも切り落とすことを仄めかしてやれば引っ込むっていうのに。
「一度、首を落とすのも悪くないかもしれないねぇ」
「えぇ……」
さっきの薬の効果があれば首を落とす程度のことは問題ない。
引き下がればそんなことはしない。
「まぁ、わかりましたよ。そこまで突っ込んでほしくないのならいいです」
「くだらないこと気にしてる暇があるなら薬師の修行に力を入れな」
「わかりましたよ」と言いながら書庫に引っ込むロメリスを後目に、彼と出会った時のことを思い出す。
確かあれは、あたしが薬屋を始めた少し後のことだったろうか。
まだ注文も無く、土地の力が余ってるのでといろいろな薬を試していたころ。
彼はこの店に偶然迷い込んできたんだ。
雑多に並べられた既製品のパッケージに別の効果を書き加えられた棚をとても興味ありげに見ていたあの彼の横顔にあたしは言ってしまえば恋をしたのだ。
1000年生きても体に引きずられてまだ恋をするとはと思いつつも、彼に同じになってほしくて、不老薬を譲ったのが始まりだった。
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