第526話:テンミョウ・ハイスⅡ~思い出の景色~
この世界に来てからいくつもの絵を描いた。
その殆どは汚した絵だが、たまには昔の作風を思い出して綺麗な景色を綺麗な景色として描くこともある。
本当にたまに、という話だが綺麗な絵を描くことがあるのだ。
でも今日はそういう気分ではなかった。
いつも通りの汚した絵を描く気分の日だったのだ。
朝起きて、今日はどこへ絵をかきに行こうかと考えながら朝食を食べているとき、ふと生前のことを思い出した。
あの絵は僕が死んだ後、どうなっただろうか。
僕が描いた絵の中で最も好きだったあの絵のことを考える。
あの頃の僕はまだ綺麗な景色を綺麗なままで描く絵描きだった。
名もまだ売れておらず、日銭を稼ぐのもおぼつかない、そういう絵描きだ。
毎日イーゼルとキャンバスを持ってある湖の畔へでかける日々。
そんな中で、冬に見たあの絵を描いたあの絵だ。
記憶の中にとてもよく残っている。
そうだ、今日はあの景色を描こう、そう考えて記憶の中の景色なのだからと、自室で描くことにした。
最初から最後まで自室で描き上げるなんて経験は生前死後含めて初めてのことだったが、筆はとても進んだ。
描きあがった絵は、今の僕の絵ではなった。
当然と言えば当然なのだが、描き上げたときの僕は本当に驚いた。
綺麗な景色を綺麗なままに描く気分でなかったのに、あの頃の絵そのままだった。
その絵は倉庫の奥にしまってしまい、たぶん二度と出すことはないだろう。
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