第491話:オルマトルス〜神話の真偽〜

 吟遊詩人がいるな、ちょっと聞いて行くか。

「お集まり有難うございます、では今日のお話は【オルマトルスの問い】」

 これは驚いた、オルマトルスって僕のことじゃないか。

 いや確かに僕はこの世界に来る前は神としてある世界にいたし、この世界に来てまでも語られている話があるとは思わなかった。

 自分の話を聞くというのはちょっと恥ずかしいが、せっかくだし聞いていこう。

 おひねりを投げるのにも聞かずに渡すのもなんだか変だしね。

 しかし知恵比べとは、そんなことしたことあったっけ?


「では、始めます」

 軽快な音楽が流れだし、吟遊詩人は話し出した。

「ある世界、ある国、名をオルマトーラといった。かつてオルマトーラがその名を持つ前、かの国は危機に瀕していた」

 音楽は少しだけ重くなり、語り出しの軽快な音楽はなんだったのかと思わせる。

「かの国は神、オルマトルスに気に入られてしまったのです。オルマトルスといえば、とても強い力を持ち、不思議なことを好む、気に入った者に試練を与えることで知られている神です」

 あれ、そうなの?僕ってば自慢じゃないけど力は弱いけど気に入った人には無条件で力を貸したりするお人好しで通ってたと思うんだけど。

「神の試練ですから、達成すれば祝福が与えられるものなのですが、かの国には試練を達成できるような自信も力もなく、このままでは滅びが待つだけでした」

 僕って人間からそんな悪神扱いされてたのか、いやでも感謝の品とかもらってたし、長い口伝ての内に変質したのかな、世界もわたったことだし。

「神オルマトルスからの試練の内容は、知恵比べ、オルマトルスの出す問いに答えることができれば、この国の未来を祝福するとのこと。王は国中の知恵者を集め、オルマトルスの問いに備えました」

 あー、あった気がする。

 オルマトーラって国のことはよく覚えてないけど確か、困ってる小国に力を貸す前に質問したことがあったっけ。

 最初話しかけたときにすっごい困ってそうだったし、ちょっとすぐにどうしたい?って聞くのもどうかと思って少し考えておいてねって一度去ったんだよね。もしかしてそれかな。

「オルマトルスの指定の日、王は王宮に国中の知恵者を集め、問いに備えました」

 あー、確かに行ったときなんか人いっぱいいて少しビックリしたんだよね。

「そうしてやって来たオルマトルスの問いは「この国をどうしたい?」というもので、集めた知恵者たちは口を揃えて「この問いに答えられるのは王様だけだ」と言いました。これには王様は困ります、なにせこの場には国中の知恵者が集まっているのです、下手なことを言えばすぐ国中に広まってしまい、国中の反感を買うかもしれません、これは飛んでも無い試練でした」

 いやいやいや、僕が王を試すためにそうなるように謀ったみたいに言ってますけど確かこの時って王が「この国の未来を祝福される瞬間を皆にも知ってほしい」とか言って集めたとか言ってたような。

「王は少し考えて「10年後にまたその問いをして欲しい」と答えました。10年後にまたこの問いを受けられるという自信からの言葉です、この世界この時代、小国が10年もの間存続し続けるというのはとても難しいこと。この答えに感心したオルマトルスはこの国を祝福し、王は国の名をオルマトーラと改め、10年後もまだ国の未来を語れる国になりました、めでたしめでたし」

 ピンっというきりのいい音で話は閉められ、観客からは拍手が送られ、いい感じの話として伝えられていることがわかったが、その話の真相はこうだ、完全に思い出した。

 あの王は人を集めて堂々と望みをいう場で突然、「あれ、ちょっと思い付かないからまた今度聞きに来て」等と言い出したのだ。

 僕は完全にあきれて、そのまま去ったからよく覚えていない話だったのだ。

 長い時が話をこうも変質させるとは、なかなか面白いこともあるものだなぁ。

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