第453話: フェル=オモナⅡ~何者にもなれない君は~

「なんだハクラ。また拗ねているのか」

「僕には何のとりえもない、何にをしても一番になれないんだ」

「そうだな、君は一番になれないだろう。比べる相手が悪い、というのもあるが、そもそもの君がかなり貧弱なのもある。ある意味では一番貧弱ということにしてもいいが」

「一番貧弱なのは嫌だなぁ」

「そうか。それで、どうしたいんだ?」

 また説教だが、どうしてやろうか。

「僕も何かで一番になりたい」

「無理だ」

「なんでさ」

「君は何者にもなれない」

「だから、なんで」

「君は何かになりたいのか?」

「なりたいよ」

「肩書が欲しい?」

「うん」

「ならば何かを成すしかない。今の君を表す言葉は、『最弱君』程度のものだ」

「それは、」

「嫌だと言うのだろう?」

「うん」

「他人から見た自分を受け入れられない奴は何者にもなれん」

「じゃあどうしたらいいの?」

「他人の評価を受け入れるか、自分を自分で定義しろ。もしくは、」

「もしくは?」

「一生自分の定義を探して彷徨うか、だな」

「なんかそれは嫌だな……」

「普通はそうだ、自分が定義されていない状態は不安で、恐ろしい」

「今の僕みたいに?」

「そうだ、と言っても大抵の人は己の定義を意識していない、自分は定義されている物だと思って生活している」

「そうなの?」

「ああ、大抵誰かと一緒にいればこそが定義されている自分だと、無意識で感じている」

「だから一人だと寂しくて不安になる?」

「そういうことだ、逆に言えば誰かといることで人は自分を定義してもらい、不安を忘れることができる」

「フェルは僕をどう定義しているの?」

「そうだな、俺はあまり他人を定義したりはしないんだが、『弱虫なルームメイト』辺りか」

 本当は、論文のネタを提供してくれるルームメイトだが。

「そんなぁ」

「他人からの評価を覆したかったら何か行動することだな。結果を出せば皆が考えを改める。手っ取り早いのは奇行をすることだが、まぁ君はそういうのには向いていないだろう」

「ちょっと考えてみる」

「ほどほどにな」

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