第439話:アルカラ∻マスナ~二つの祭り~

 困った。

 明日は祭りが二つあるのだが、私はその両方へ参加することになっている。

 残念なことに私の体は一つしかないから、当然片方へしか参加できないわけだ。

 しかしだ、私は両方へ参加したいし、参加する義務がある。

「という訳なんだけど、どうにかならないかな」

「なんでそれをうちで聞くんです?」

 ここは馴染みの薬屋、摩訶不思議な秘薬の類を取り扱っていて、困ったらとりあえずここで相談するようにしている。

「師匠、なんかそういうのどうにかできる薬とかないですか?」

「ん、んー?そうねぇ、あるわよぉ。人格分裂薬」

 挙げられた薬は問題が一個も解決しなさそうな奴だった。

「それ体は増えないんじゃないですか?」

「体も増える方がいいなぁ」

「増えるわよぉ」

「増えるのか!?人格分裂薬で!?」

 本当にそれは人格分裂薬なのだろうか。

「そうなのよねぇ、本当は一時的に元の人格の特徴を分けた多重人格になるはずの薬だったんだけど、どういう訳かこの世界では体も二つになっちゃうのよねぇ」

 どっかで元は一人だったっていう双子を見かけたな。

 たぶん、この世界では一つの体に二つの魂ってのは認められないんだろう。

「わかった、それでいいからくれ」

「はいはいなぁ、気を付けて使うんやよ」


 当日、朝早速薬を飲むと聞いていた通り私は二人になった。

 少しの違和感があったが、二人になった私は相談してどちらがどちらの祭りへ行くかを決めて、私は落雷祭りへと、もう一人は泥祭りへと行くことに決まった。


 落雷祭りは大盛り上がりだった。

 色とりどりの雷魔法が平原を彩り、雷踊りも盛り上がった。

 はずだったのだが、なんとなく不満が残る。

 何かが足りない、何かが足りなかったのだ。

 祭り事態に不備はなく、私以外は満足していたであろうことは間違いない。

 もしかしたら、あの薬が原因だろうか。

 祭りの後片付けに参加して帰ると、もう一人の私は既に帰ってきていた。

 こちらもどういう訳か機嫌が悪い。

「どうしたのさ。泥祭り、楽しくなかった?」

「それがさぁ、喧嘩しちゃって、追い出されちゃってさぁ」

「えぇ、なんでそんなことになったの」

「よくわかんないんだけど、今日はやたらとムカムカするんだよね」

「ムカムカ?」

 そういえば、私は今日やたらと落ち着いている気がする。

「なんか、変じゃない?」

「変だよね?」

 どちらの私も、今日はなんだか変な気分で祭りをちゃんと楽しめなかったらしい。

 どういうことだろうか。

 しばらくして、私が一人に戻ってもそのモヤモヤは続いた。

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