第417話:ナユ_サナクルⅤ~自分同士の喧嘩~

「あー!もうやってられん、出てけ!」

「やだね!でてくならお前がでてけ!バーカ!」

 俺は今、俺と喧嘩をしている。

 女の方の俺となんだが、どうにも自分同士というのは上手くいっているときはとてもうまくいくが、ダメなときはとことんダメだ。

 自分だからわかることもあるが、自分なのにわからないとなると、自分なんだからもっとわかってくれという気になってしまうんだろう。

 特に、女の方の俺はその傾向が顕著に出ている。

 女だからか、別の世界での生活を20年経験したからかはわからないが、相手が自分だから引くに引けないってのもあるわけだ。

「ここは俺んちだ!」

「なら私んちでもあるだろ!」

「ねぇよ!」

 口論ではお互い折れない。だいたい同レベルだからだ。

 ただ、こうしてヒートアップしてくると、俺の方が不利になってしまう。

「あだっ!てめぇ卑怯だぞ!」

 手が出た、ていうか出された。

 女の俺は、前の世界でどういう訳か格闘術を学んだらしく、べらぼうに強い。

 だから、手が出たら俺が不利だ。

 しかし、何度も同じようにされて負けているのだ。俺も馬鹿ではない、ちゃんと対策を練っているさ。

展開アファマ防壁アグル スーラク!」

 携帯端末デバイスに登録しておいた音声コマンドで、自分の周囲を囲う魔法防壁を展開する。

 元々携帯端末には入っていたのだが、いつも起動前に潰されるから音声コマンドを登録して、声で発動できるようにした。

「さて、これで手も足も出まい。謝るか出てってもらおうか!」

「はぁー」

 女の俺は大きくため息をついた、諦めたか?

 ドンッ

 無言で防壁を叩かれた、やべぇ、透明な壁越しに思いっきり拳を振り下ろされるとめっちゃ怖いな。

 でも大丈夫だ、たぶん手の方が負けてる。少し痛そうだ。

 その手をじっと眺めたと思ったら、構え直した。おいおい、まさか本気で割る気じゃないだろうな?ていうかこれ割れるものなのか?

 ……割れた。

 どういうことかよくわからないけど、パンチ一発で割れた。

 え、なんだこれ、対魔法格闘術ってそういうものなのか?

 初対面の時はほぼノーモーションで放った捕縛魔法とかも避けてたけどこいうのもありなのか?

「あー、なんだ」

 とりあえず、謝ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る