第384話:ファファニス・ロリア~私は嘘が得意なので~

「私は嘘が得意なんですよ」

「そんなふうには見えないけど?」

「はい、嘘なので」

 共通語訓練会で会話のパートナーになった子が変な子だった。

 彼女はファファニス・ロリア、出身世界はケメロ以外のどこか、この世界に来てからは6年未満、好きな食べ物は魚類以外の何か、職業は事務職ではない、等々。

 そして、彼女は嘘が得意ではない。

 色々とわかるのは今回の会話のテーマが自己紹介だからで、名前以外の全ての情報が何か以外の何かになっているのは彼女は嘘をつくからだ。

 彼女は自己紹介をするときに、「私はケメロ出身です」と一度普通に言ってから、あからさまに嘘をついているという態度になる。

 まるで、嘘をついていることに気づいてくれと言わんばかりの態度だ。

 だから、私はすぐにそれを嘘じゃないのと指摘する。

 そう言うと彼女は「はい、嘘なので」と言う。

 こういう話し方は正直、共通語の変わった言い回しとしての訓練にちょうどいいと思う。

 ちょうどいいとは思うのだけど、やっぱり少しめんどくさい。

「私は、サッカーっていう球技が好きなんですよ」

「そんなふうには見えないけど」

 彼女は見た感じ運動が得意なようには見えない。

「はい、嘘なので」



 それからいくつかの嘘の自己紹介を聞いて、そろそろ終わりの時間というときになって、彼女が自己紹介以外の話を持ち出してきた。

「実はですね、今までの自己紹介の中で嘘が一つだけあるんですよ」

「一つだけじゃないよね?」

「はい、嘘なので。本当は発言の半分が嘘です」

「言っている意味がよくわからないのだけど?」

「これをどうぞ」

 そう言って彼女が差し出した携帯端末の画面に表示されていた写真や動画は今まで彼女の自己紹介が本当だという証拠達だった。

 身分証明書にはケメロ出身と表記され、転生日は6年前の日付が書かれていて、魚を満面の笑みで食べていて、忙しそうに事務の仕事に勤しんで、ボールをゴールにシュートしていた。

「え、なんで?」

「私は嘘が得意なので」

 彼女は嘘っぽい顔でそう言った。

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