第363話: イクス=オルゴン~逃げる逃げる~

「はっはっはっ」

 走る、宛もなく、ひたすら走る。

 目についた横道に入り、壁を登って、穴に飛び込み、別の穴から出る。

 町から出ることはできないから、ひたすらとこの立体的な町の中を逃げ続ける。

 追っ手は3人、それぞれ名前は把握していないが、3人ともが非常に優秀なハンターだ。

 今私が逃げられているのは、この町の地理にお互い詳しくないことと、運がいいからというだけだ。

 タイムリミットは今日の日没、16時。

 その時間を過ぎれば晴れて逃げきり成功、それ以上追われない。

 今は14時、あと2時間。


 さて、1人が今追いかけてきている。

 私が通った道をそのままなぞって追いかけてくる。

 たぶん彼は捕まえる役じゃない。

 全員捕まえるために来ているのだけど、3人の中での役割の話。

 私が通った道をそのままなぞって追いかけてくるのは、私を見失わないため、それとこっちから追いかけているぞと分かりやすく示すため。

 どうにか撒こうとしても絶対に見つかって追いかけてくる、目がいいのか勘がいいのか、それとも、

 残り2人のどちらかが、別で見ているか。

 当然だけど、3人は常に通信して私の位置、互いの位置を共有している。

 追いかける役以外の2人のどちらかが、私を別の角度で見て、追いかける役の死角に入って撒こうとしても、監視役が私の位置を教えて発見させる。

 できれば、監視役の位置を見つけられれば撒けるのだけど、彼は隠れるのが上手すぎる。

 どこかにいるのはわかっていても、見つけられたことはない。

 監視役さえ見つけて撒ければ逃げ切ったようなものなんんだけど、そううまくはいかない。

 そして最後の1人は捕獲役。

 きっとこのまま単純に逃げても、そのうち彼の場所へ追い込まれる。

 ただ追いかけられているだけのはずなのに、彼らは私の逃げるルートを誘導していることがある。

 そして、捕獲役のところまで誘導したら、一瞬で確保。

 そう、今まさにされたように。


 捕まってしまった。

 うまく誘導されないように、色々と考えながら裏をかいてその裏をかいてと頑張って逃げていたというのに。

「現在時刻は14と53、あと少しうまく逃げられれば逃げきることもできるでしょうな」

 捕獲役の男は86点もテストの結果を告げる言う。

「いやぁ、お嬢様の選ぶルートはセンスがありますな」

 追いかけ役の男が私の成長を喜ぶように言う。

「もうちょっと、周りをよく見ないと、また僕を見つけられなかったでしょう」

 いつのまにか姿を表していた監視役の男が不満そうに言う。

 3人の使用人が、口々に明日からのトレーニングメニューを相談している脇で、トレーニングをサボるためにどうやったらこの3人から逃げられるかを考えるのだった。

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