第352話:ロイドーディーロ~巨人体験~
俺は巨人だ。
見下ろせば、小人の町が広がっている。
細く高いビルや小さな家屋が並ぶ、小人の感覚ではかなり大きな町だ。
俺が町へ踏み込んだだけで、パニックになった。
舗装された道路は砕け、走っていた車から小人が降りて逃げる。何やら悲鳴をあげているようだが、聞き取れない。
腕を一振りすると、ビルはなんの抵抗もなく折れた。
町を歩いていた小人たちは、降り注ぐビルの破片や、俺の足から逃げる、悲鳴は何を言っているのかわからない。
住宅街に足を進める。
踏み潰した家屋から小人が逃げ出してくる、俺はそれも狙って踏み潰す。
悲鳴は聞こえなかった。
ひとしきり破壊し尽くしたところで、一度視界が暗転した。
「さて、次は言葉を通します」
アナウンスが入り、また同じような町が目の前に現れた。
巨人の俺は、また町を破壊する。
ビルを破壊すると、悲鳴が聞こえた。小さな悲鳴だ。
「怪物だ」「やめてくれ」「痛い痛い痛い痛い」「死にたくない」「逃げろ」「終わりだ」
俺はその悲鳴を気にすることができない。
できないようにされている。
腕を振るう。ビルが砕ける。
悲鳴が聞こえる。
さっきよりもはっきりと。
やめろ、苦しい、辛い。
それでも、俺は破壊をやめない。
小人を踏み潰し、町を蹴散らした。
その足は先程よりも鈍っているように感じた。
暗転。
「おつかれさまでした」というアナウンスと共に意識が現実に復帰する。
目の前に用意されたバケツに向かって俺は吐いた。
「どうでした?」
「最悪の気分だ」
「そうでしょうね」
「だが、理解できた」
「そうでしょうね」
最初は虫の巣を破壊した。
なかなか爽快感があって楽しいゲームだった。
次に虫が住むヒトの町を破壊した。
町を破壊するのは楽しかった、虫の巣を破壊するのよりもずっと。
次は言葉のわからない小人の住む町を破壊した。
少し気分が悪くなった。
最後に、言葉が通じる小人の町を破壊した、いや、させられた。
どこまでが自分の意思で体を動かしていたのかはわからなかったが、これはそういう体験をするゲームだ。
「言葉が通じる相手を一方的に蹂躙するのはきつい」
圧倒的な力を持つ巨人がこの世界には存在する。
彼らは、その力を小人に向けることを恐れている。
俺はその理由が知りたかっただけなのだが、結構なトラウマになってしまった気がする。
たぶん、もう一度やったら最初の虫の巣を破壊するのも躊躇うだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます