第348話:チャル・ハウス~浮遊都市~
「うおー!たっけぇなぁ!」
「あんまりはしゃぐと落ちるぞシェグ」
今日は教え子のシェグと一緒に浮遊都市【フスロカムニア】へ来ている。
一応授業の一環なのだが、こいつは理解しているだろうか。
「こっちだ、着いてこい」
「えー、せっかくの浮遊都市なのに、どこ行くのさー」
確かに浮遊都市の魅力は外周部の眺めの良さにある。中央市街に入ってしまえば他の街と大して変わりない。
今日は観光じゃないから関係ないんだが、シェグは不満そうだ。
「さて、今日の授業だが都市構造における環境の差だ。この世界では戦争の類はなく、魔物の群れが都市襲撃をすることもない。つまり防衛都市というものを作る必要はないのだが、5000年以上の古い歴史を持つ街は違う。わかるか?」
移動しながらも授業だ、
「5000年以上前になると、まだ世界間での戦争が活発で、今ほど平和な時代じゃなかったんだよね」
「うむ、そのとおり。そしてこのフスロカムニアも5000年以上の歴史を持つ古代都市だ、今では中央市街もそれなりに近代化しているがな」
「当時に空中都市を作れるぐらいだったのだから、今と遜色ないレベルの技術力だったんじゃないの?」
「いいところに気づいたな、今から見に行くのはまさにそこだ」
この浮遊都市の中央部、観光的にはなぜかあまり人気のない、この都市の核だ。
「これなに?」
「これがこの都市を浮かせている、浮遊核と呼ばれるものだ」
見た目は青い結晶体、なぜかどこの世界の文献でも飛行結晶は青い。
飛行結晶を構成している成分が異世界共通なのだろうか。
「ここ、入っても大丈夫なの?」
「立ち入りは自由、まぁ悪意がある者が侵入しても破壊したり盗んだりはできないようになっている、らしい。試しに割ろうとかするなよ、外周部から落とされるぞ」
「うへぇ、でもこれ、すごい技術で制御されてそうだけど、さっき言ってた当時の技術レベルってのはどうだったの?」
「上の方、見えるか?あれが当時の浮遊核だ」
目の前にある浮遊核よりも上部、戦時中にこの都市を支えていた物が歴史保存という名目でそのまま残されている。
同じような青い結晶の上に直に柱が立っている。
見た目では、天井から青い結晶がぶら下げられているように見える。
「当時はああして浮いている浮遊核に柱を立てて、そこを起点に都市を拡張していたらしい。今でこそ都市全体を覆う浮遊力場を生成し浮いているが当時は本当にこの浮遊核に直接支えられて浮いていた、ということだ」
「よくそれで今まで残ってたなぁ、なんで?」
「少しは自分で考えてみろ、どうだ?」
「うーん、当時他に航空戦力を持つ世界がなかったから、この都市は他の世界の人が来ない方まで逃げていたから、戦闘技術が優れていたから、この辺かなぁ」
「うむ、どの説も説得力がある。本当の歴史が残されていなかったら、それが事実として認識されていてもおかしくないような話だ」
「じゃあ、違うんですか?」
「違う、真実というのは案外呆気ない物でね。この浮遊都市の他にも同じ世界は似たような都市を多数所有していたが、全て落とされた。この都市だけは文化保存という名目で残された、というわけだ。勝者の余裕というものだな、敗戦世界コレクションだったわけだ」
「ひどいなぁ」
「さて、あとは観光の時間としよう。今の話を念頭に置くことでただ見て回るよりもわかることが多いはずだ、発見は全て後日、【都市構造における環境の差】というタイトルでレポートとして提出すること」
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