第343話:イーリス・バック・ラクレームⅢ〜記憶にある毛玉〜

「今日も一緒に行かないのか?」

「そろそろいい加減しつこい、我はそんな物には行かん」

 いつものやり取りだ、害獣駆除の仕事に誘ってくるが受けたことなど数度あるだけ、なのによくもこう飽きずに誘って来るものだ。

 しかし、今日は少し気が向いた、何を狩りに行くかだけでも聞いてみるか。

「そうかい、今日は【蠢く毛糸玉】とやらを狩ってほしいらしい、あんまり強いわけじゃない見たいだけど、ひたすらに数が多いらしい」

「蠢く毛糸玉……聞いたことがあるような無いような……?」

 なんだったか、ずっと前、死ぬよりも前、あの世界にいた頃、人間に蠢く毛糸玉と呼ばれていた、なんだったか、そう、あれは……。

 思い出した、あれは非常にまずい、なんとしてでも根絶やしにしなければ。

「たまには一緒に行ってやろうじゃないか」

 それには、元勇者の害獣駆除に同行するのが手っ取り早い。


「これは……」

「予想はしておったが、すごいな」

 蠢く毛糸玉と呼ばれる白い毛糸玉、見渡す限りがふわふわの毛糸玉で埋め尽くされている。

 恐ろしいことに、こいつはこれで一匹だ。

 こいつは無限に増えるのではなく、無限に大きくなってどんどん体を分けていく、体は別れても同一個体。

 世代間で変化されると厄介なので繁殖能力は持たない、その代わりにと設定した能力だ。

 そう、この毛糸玉は我が作らせた魔物だ。

 この増えるだけという能力が厄介な癖に戦闘能力は持たないという性質から、不要と判断し処分したのがだいたい70年ほど前。

 この世界に転生してきてどこかに隠れて増えていたんだろう。

 こんなものは今すぐに全て燃やしてやる。

 松明に全てを燃やし尽くす我が炎を灯し、投げ入れようとすると元勇者に止められた、周りへの影響を考えてくれとのことだが、そんなことは知ったことではない。

 物陰に1つでも残せばそこからまた増える、こいつを根絶やしにするにはこうするしかないのだ。

 松明を毛糸玉の群れに投げ込むと、当然のように燃える、元勇者が慌てて水をかけて消そうとするが、我が炎は水をも燃やす。

 そうして、周囲一帯を燃やし尽くして炎は消えた。

「うむ、解決だな!」

「いや、これ弁償ものだよ……」

 どういうわけか、今回の件の弁償として屋敷が狭くなった。

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