第311話:タンカ・コンムⅡ~テロン街で怪しい男と出会う~
「やぁ。君はこの辺りに住んでいるのかい?」
怪しい男に話しかけられた。
普段なら適当に無視するところだけど、場所が場所だけに無視できるものではない。
このテロン街において屋外でヒトと出会うことなどない、と言っていいほどに稀だ。
そして、この怪しい男とは既に今日、3度出会っている。
この街は迷うと言っても同じ道を何度も歩かされる迷路ではない。
ルールの無いランダムな接続、それも広大な面積の土地で立体に延びた建造物の中でおこなわれる。
ヒトと出会うわけがない。
「なんで何度も出会うんだろう。そう考えているだろ?」
当てられた。
今はお互い動いていないからはぐれないが、逃げようと思えば一つ角を曲がるだけで逃げられる。
「きっとそれは運命なんだ」
「そうね、すごい偶然ね」
きっと、その浅はかな考えが判断を鈍らせたのだろう。
私は話に乗ってしまった。
「いいや、君もこの街で何度も出会うことがただの偶然で済むことじゃないことぐらいよく知っているんだろう? 君の歩き方には迷いがない、テロン街に慣れているヒトの歩き方だ」
確かに、私はテロン街慣れしている。
始めの頃に比べてナビを辿るのにも慣れてきて、戸惑いなく歩けていると思う。
というかまさかこの男、今まで私のことを見てた?
しかし、歩いているところを見られているなんてありえない。
常に道のタイル単位で接続が変わっているこの街で継続して後をつけるなんてこと、できるわけがない。
手を繋いでいても同じ扉から店の外に出ただけではぐれる街で一人を追いかけるなんてことができるはずがない。
もしかして、この男は、テロン街を自由に歩けるのだろうか?
「うーん、こんなところで立ち話もなんだし、カフェにでも入ろうか」
そう言って、少し歩いた彼はそこにある扉を開ける。
そこは、彼が言ったようにカフェだった。
ナビを使ったようには見えなかった。
なのに扉を狙ったところに繋げることができる、これは間違いない。
彼は、テロン街を自由に好きなように歩くことができる。
これは、利用できる!
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