第308話:バームⅢ〜逃げた先は〜
やっぱりここに逃げるしかねぇよなぁ。
鬼に追われて数週、金策したり人脈辿ったり、隠れたり、いろいろとやって来たがどうにも逃げ切れない。
やつらの執念深さは異常だ。
あんまり気は進まないんだがやはり逃げ隠れるのに最適な場所といえばこの街になる。
テロン街、この街で人を探すのは不可能だ。
この街は常に繋がりが変化し続ける。
鬼達が俺を見つけて追いかけてこようにも、変化し続ける街に遮られて簡単には追い付けない。
俺も適当に曲がり角をひとつ曲がるだけで実際の距離は遥か遠く離れると言うこともある。もちろん、この街で実際の距離なんてものはまったくなんのの役にも立たないのだが。
逆に、逃げているつもりが突然出会ってしまうこともあるわけで、その辺が気が進まない理由でもある。
あと、テロン街の住人になるということは通常の生活を捨てると言うことでもある。
専用地図アプリでも使わなければ出ることも自宅へ帰ることもできないのだ。
使っても目的の場所に辿り着く行程が毎回変化するし、記憶は参考にならない。
まともな人間が住む街じゃない。
しかし、俺もこんな街に逃げ込まないといけなくなるとは思わなかった。
まったく、面倒なやつらに目をつけられたものだ。
文句ばかり言ってても追い付かれる可能性が上がるだけだし、さっさと入るか。
テロン街へ入るゲートを潜ると、それだけで違和感がある。
他の街とは根本から違う。
もしかしたら世界を渡る能力を持っていた俺だけが感じることのできる違和感かもしれないが、なんと言うか、混ざっているのだ。
この街はいくつもの世界が混ざっている。
繋がりがおかしいことにそれが関係あるのかどうかはわからないが、少しだけ俺にとって都合のいい事実も判明した。
この街では俺の能力が使える。
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