第270話:リュチェ・マグス~世界を滅ぼした記録~

 学校の自由研究で私が選んだテーマは【壊世神話】。

 読んで字の如く、世界の崩壊を綴った神話のことだ。

 世界の滅びに神という上位存在が関与していようがしていまいが、そもそも神の存在する世界でなくとも神話という名称で統一されている。

 本来、世界の終わりを語り継ぐなんてことは無い、そもそも滅んだ世界には誰もその世界の終わりなどを語り継ぐ者などいないからだ。

 だけど、この世界には世界の滅びをその目で見て、体験して、記憶している者がいる。

 そしてその記憶は記録としてデータという形で具体性の無い記憶情報として抽出され、専門の壊世神話の編纂者の手によって物語という形にされるのだ。

 その記録は誰でも閲覧することができ、暇な人や歴史学者のような人が読むのだ。

 私は暇人じゃないのでどちらかと言えば後者に近い。

 歴史学者ではないが、世界の終わりというものに興味がある。

 私が元いた世界は滅んではいないが、いつ滅んでもおかしくなかったような気がする。

 というか、私はいつも世界の崩壊を望んでいた。

 結局世界が滅ぶよりも先に私の方が死んでしまったのだけど、あの世界から抜けられたのだし、良かったといえば良かった。

 違う違う、話がそれた。

 私の前の世界での思い出などなくてもいい。

 とにかく、色々な世界の崩壊を調べる、そして纏めて学校で提出だ。


 まず1つ目の世界、【ヴァンフォルニキュ】

 この世界の末期は世界の殆どを邪神ギャルシニュの子である魔性の獣が被っていた。

 創生神の子らは世界の片隅、創生神バッシュニアの力で保護された聖域にのみ暮らしていた。

 創生神の子らは護られて暮らしていただけではなく、打倒邪神を掲げて魔性の獣に対抗する者たちもいた。

 彼らは創生神より賜った超常の力を使い、魔性の獣と戦い続け、最後には邪神と戦った。

 最後の戦いの際、彼らを護る為に顕現した創生神バッシュニアと邪神ギャルシヌは直接戦い、相討ちになり神を失った創生神の子らも、邪神の子らも徐々に衰退し、やがて世界は滅びた。

 要約するとこんな感じだ。

 壮絶だった、というか、この壊世神話は読み物として非常に面白かった。

 一通り提出できるかたちに纏め、次の神話に手を出す。


 気がついたら朝になっていた。

 読んだ神話は15個、どれも読み物として非常に良い出来であり、うっかりのめり込んでしまった。

 結局、レポートにできたのは最初の方に読んだ4個だけであり、11個は面白くて読んでしまっただけだった。

 すごい面白かったから、また時間を作って読もう。そうしよう。

 私が滅びを望むほど憎らしいあの世界の滅びに相応しいような味気ない、無彩色な滅びのイメージを強固にするような神話には出会えなかったのが残念だけど、面白かったので良しとする。

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