第261話:ドロースⅣ〜禁断の金策〜

 金がない。

 全くもって金がない。

 前の支払いはバイト先の仲間に借りて返して当然次の支払いが倍になる。

 わかってはいた、わかってはいたのだけどこれは相当厳しい。

 こうなったら、あの禁断とも言われる金策をするしかないか。


 やって来たのは金券ショップ。

 金券ショップだ、この世界にもある。

 狭い店内には、所狭しとカード状やぺら紙、空間モザイクに覆われた数列コード、暗号結晶等様々な形での金券が並べられている。

「買いか、売りか」

 店主の少年が聞いてくる。

「売りで」

 俺は持っている金券を売りに来た。

 金券の取引は禁止されているわけではない、それがなぜ禁断の金策等と呼ばれているか。

「何を売るんだ」

「これを」

 そう言って携帯端末デバイスを提示する。

 別に携帯端末デバイスを売るわけではない。

 その中に入ってる金券を売りに来たのだ。

「食券5日分、医療券全部、交通機関利用券、衣服券、空間占有券、とりあえずこの辺りを売りに来た」

 つまりは、基本支給分の金券を死なない程度に売りに来たのだ。

 追加支給はできるが、正当な利用でなければ申請はできない。

 とうぜん金券ショップに売り払うなど、正当な利用と認められるはずもなく、追加申請など出来ない。

 それゆえに、禁断の金策と呼ばれているのだ。

「はいはい、だいたい全部合わせて350000パソで買い取らせてもらいますね」

「もう少し、高くならないか」

 別に350000パソあれば十分だが、高いに越したことはない。

「うーん、しかしなぁ。食券は需要が低いし、医療券も物好きが買うだけだ。まぁー需要があるのは衣服券、空間占有権ぐらいでな350000で買い取ってやるだけ有情ってやつだよ」

「そうか……」

「はいよ、350000パソ。しっかり確認しな」

 携帯端末デバイスの中から提示した金券が消滅し、350000パソの入金があることを確認した。

「あんま無理な金の使い方するんじゃねーぞ。この世界では贅沢しなけりゃ死ぬまで養ってくれるんだから、贅沢したけりゃ働け」

「働いてますよ、ちょっと事情がありましてね、借金がいくらか」

「はぁー?借金がある?この世界でどう生きればそんなことになるんだ、信じらんねぇな」

「僕もほんと信じられないですけど、まぁ成り行きで」

「成り行きでそんなことになるか、まぁ、なるときはなるな。頑張って借金返してうちで買う客になってくれよ」

 そういう少し世間話をしたあと、借金を返して働くために職場へ行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る